1 「衝突,接触…その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している一般自動車総合保険約款に基づき,上記盗難に当たる保険事故が発生したとして保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張,立証すべき責任を負うが,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わない。 2 「被保険自動車の盗難」という保険事故が発生したとして一般自動車総合保険約款に基づき車両保険金の支払を請求する者が,「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証するだけでは「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的事実を合理的な疑いを超える程度にまで立証したことにはならないにもかかわらず,上記の立証をするだけで盗難の事実が推定されるとした原審の判断には,主張立証責任の分配に実質的に反する違法がある。
1 「衝突,接触…その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定している一般自動車総合保険約款に基づき上記盗難に当たる保険事故が発生したとして車両保険金の支払を請求する場合における事故の偶発性についての主張立証責任 2 被保険自動車の盗難を理由に車両保険金を請求する者が主張立証責任を負う盗難の外形的事実について単に「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証するだけで盗難の事実が推定されるとした原審の判断には違法があるとされた事例
(1,2につき) 商法629条,商法641条,民法91条,民訴法第2編第4章第1節 総則 (2につき) 民訴法247条
判旨
車両盗難保険の保険金請求において、被保険者は「盗難」の事実、すなわち「他人の財物につき、占有者の意思に反してその占有を移転した事実」を主張・立証する責任を負い、単に車両の所在不明を立証するだけでは足りない。
問題の所在(論点)
車両盗難保険契約における保険金請求者が負う「盗難の事実」の立証範囲、および単なる「車両の消失」の立証のみで足りるか。
規範
車両盗難保険における保険事故(盗難)の主張立証責任は、保険金請求者(被保険者)に帰属する。この「盗難」の意義は、刑法上の窃盗罪等と同様、財物の占有者の意思に反してその占有が第三者に移転したことを指す。したがって、請求者は単に「車両が所在不明となった事実」のみならず、「それが第三者の占有移転によるものであること」を推認させるに足りる具体的状況を主張・立証しなければならない。
重要事実
被保険者Aは、ショッピングセンターの屋上駐車場に本件車両を駐車し、約30分間離れた。その後戻ったところ車両が消失していたため、車両盗難を理由に保険金を請求した。Aは、車両のキーは1本のみであり、施錠して離れた旨を主張した。しかし、Aには過去数回にわたる同様の車両盗難保険金の受領歴があり、さらに本件以前の保険契約の際、過去の事故歴を隠匿して告知義務に違反した事実が認められた。
あてはめ
被保険者が「車両の消失」を証明すれば「盗難」があったと事実上推定されるとする考え方は、保険契約上の立証責任の原則に反する。本件において、Aは駐車の事実と消失の事実を主張するが、Aの過去の保険金受領歴や告知義務違反等の不自然な事情に照らせば、単なる消失の事実から直ちに第三者による占有移転(盗難)があったと推認することはできない。被保険者が負うべき立証の程度は、消失が占有者の意思に基づかないものであることを合理的に推認させる具体的状況にまで及ぶべきである。
結論
被保険者が「盗難」の事実、すなわち占有者の意思に反して占有が移転した事実を主張・立証しない限り、保険金請求は認められない。原審の判断には立証責任の配分に関する法令の解釈誤りがある。
実務上の射程
保険金請求訴訟全般において、保険事故の発生(権利発生原因事実)の立証責任が請求者にあることを再確認するもの。盗難のような密行性の高い事案でも、単なる所在不明(紛失や自己による隠匿の可能性が残る状態)では立証として不十分であり、盗難を推認させる外形的・客観的事実の立証が必要となる。
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。