普通傷害保険契約における死亡保険金の支払事由を急激かつ偶然な外来の事故による死亡とする約款に基づき,保険者に対して死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶然な事故であることについて主張,立証すべき責任を負う。 (補足意見がある。)
普通傷害保険契約の約款に基づき死亡保険金の支払を請求する場合における偶然な事故についての主張立証責任
商法第3編第10章保険,民法91条,民訴法第2編第3章第1節総則
判旨
傷害保険契約における「偶然な事故」の主張立証責任は、保険金請求権の成立要件であるため、保険金請求者が負う。免責条項としての「故意・自殺」の定めは、保険金が支払われない場合を確認的に規定したに過ぎず、保険者に立証責任を転換させるものではない。
問題の所在(論点)
傷害保険契約に基づき保険金を請求する場合において、事故の「偶然性」に関する主張立証責任は、保険金請求者と保険者のいずれが負うか。特に、免責条項(自殺等)との関係で立証責任が転換されるかどうかが問題となる。
規範
傷害保険契約において、死亡保険金の支払事由が「急激かつ偶然な外来の事故」と定められている場合、その事故が「偶然」であることは、保険金請求権の成立要件(権利発生原因事実)にあたる。したがって、特段の事情がない限り、保険金の支払を請求する者がその主張立証責任を負う。また、約款上の「被保険者の故意または自殺による免責規定」は、保険金が支払われない場合を確認的・注意的に規定したものに留まり、立証責任を保険者に負わせる趣旨ではないと解するのが相当である。
重要事実
保険契約者(上告人ら)は、被保険者を甲とする普通傷害保険契約を締結していた。約款には「急激かつ偶然な外来の事故」に対して保険金を支払う旨のほか、被保険者の「故意、自殺」による傷害は支払わない旨の免責条項があった。被保険者甲は、5階建て建物の屋上から転落し、脊髄損傷等により死亡した。しかし、本件転落が自ら飛び降りたのか、誤って転落したのかという「偶然性」の有無が不明確な状況であった。
あてはめ
本件各約款において「偶然な事故」が保険金支払の前提条件として明記されている以上、これは権利を基礎付ける要件そのものである。もし立証責任を保険者側に負わせたとすれば、死因不明の事故について安易な保険金請求を許容することになり、保険制度の健全性や誠実な加入者の利益を損なうおそれがある。また、自殺免責の規定が存在したとしても、それは偶然性の欠如を具体例として挙げた確認的規定に過ぎない。本件では、転落の偶然性が証拠上認定できない以上、立証責任を負う上告人らの請求は認められない。
結論
事故の偶然性についての立証責任は保険金請求者が負う。本件転落が偶然な事故であると認めることができない以上、上告人らの保険金請求は棄却される。
実務上の射程
傷害保険の給付請求訴訟における証明責任の分配を決定した重要判例である。答案上は、まず「偶然性」が保険事故の構成要素であることを指摘し、証明責任分配の一般原則(自己に有利な法律効果を主張する者が要件事実を立証する)に則って構成する。一方で、補足意見が示唆するように、約款の文言が不明確な場合には信義則による修正の余地が残されている点にも留意が必要である。
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。