保険契約者又は被保険者が住宅火災保険の目的である建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠つたときには保険者は保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の条項は、保険契約者又は被保険者が保険者に対して譲渡後遅滞なく右通知義務を履行することを怠つている間に保険事故が発生した場合に保険者が免責されることを定めているものと解すべきである。
住宅火災保険の目的建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠つたときには保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の解釈
民法91条,商法650条
判旨
火災保険の目的たる建物が譲渡された場合、約款上の通知義務および免責条項は、所有権移転後「遅滞なく」通知すれば足りると解すべきであり、譲渡の2日後に事故が発生した場合には免責条項は適用されない。
問題の所在(論点)
保険の目的である建物の譲渡が行われた際、譲渡直後に保険事故が発生した場合において、約款上の通知義務不履行を理由とする保険者の免責が認められるか。特に、所有権移転前の事前通知義務を課す約款の解釈が問題となる。
規範
1. 保険の目的の譲渡につき通知義務を課し、不履行時に保険者を免責する約款は、保険者に危険の調査・契約継続の検討機会を確保する正当な利益があるため、原則として有効である。 2. もっとも、建物譲渡において所有権移転時期は代金完済等まで留保されることが多く、事前に通知を要求することは困難を強いる。したがって、約款に「あらかじめ」等の文言があっても、譲渡後「遅滞なく」通知すれば足りると解するのが相当であり、その履行が可能な期間内に発生した事故については免責条項は適用されない。
重要事実
訴外Dは建築中の建物につきB1火災と住宅火災保険契約を締結した。その後、Dは上告人に対し本件建物および敷地を売却し、翌日に所有権移転登記が完了した。そのさらに翌日(譲渡から2日後)、本件建物が類焼被災した。B1火災の約款には、保険の目的を譲渡した際はあらかじめ通知して承認裏書を請求すべきこと、この手続を怠っている間に生じた損害には保険金を支払わない旨(本件約款8条)が定められていたが、Dおよび上告人は火災発生前に通知を行っていなかった。
あてはめ
本件約款8条1項は「あらかじめ」または「遅滞なく」通知すべき旨を定めているが、建物譲渡の性質上、所有権移転の効果が発生した後に「遅滞なく」通知義務を履行すれば足りると解される。本件において、火災が発生したのはDから上告人への建物譲渡からわずか2日後であり、かつ所有権移転登記の翌日である。このような短期間では、Dまたは上告人が「遅滞なく」通知義務を履行しなかったとは評価できない。したがって、通知義務の遅滞があるとはいえず、同条2項の免責条項を適用する前提を欠く。
結論
本件火災は通知義務を履行すべき合理的期間内に発生したものであるから、保険者は免責条項に基づき保険金の支払いを拒むことはできない。
実務上の射程
約款の文言(事前通知)を文言通りに解釈せず、取引の実態に即して「遅滞なく」と限定解釈した点に特徴がある。答案上は、保険契約の団体性・定型性と個別事案における妥当な解決の調和を図る際の解釈手法として活用できる。なお、保険契約上の権利移転については民法467条の対抗要件具備が別途必要となる点にも留意が必要である。
事件番号: 昭和34(オ)355 / 裁判年月日: 昭和37年6月12日 / 結論: 棄却
損害保険契約にも民法第五四一条の適用があると解すべきである。