1 火災保険契約の申込者は,特段の事情が存しない限り,同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分,不適切な点があったことを理由として,慰謝料を請求することはできない。 2 火災保険契約の申込者が,同契約を締結するに当たり,同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をする場合において,火災保険契約の申込書には「地震保険は申し込みません」との記載のある欄が設けられ,申込者が地震保険に加入しない場合にはこの欄に押印をすることとされていること,当該申込者が上記欄に自らの意思に基づき押印をしたこと,保険会社が当該申込者に対し地震保険の内容等について意図的にこれを秘匿したという事実はないことなど判示の事情の下においては,保険会社側に,火災保険契約の申込者に対する地震保険の内容等に関する情報の提供や説明において不十分な点があったとしても,慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべき特段の事情が存するものとはいえない。
1 火災保険契約の申込者が同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分,不適切な点があったことを理由とする慰謝料請求の可否 2 火災保険契約の申込者が同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分な点があったとしても慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべき特段の事情が存するものとはいえないとされた事例
商法629条,民法415条,民法709条,民法710条,保険募集の取締に関する法律11条1項
判旨
保険契約締結時における地震保険に関する情報提供が不十分であったとしても、当該意思決定は財産的利益に関するものであるため、特段の事情がない限り、慰謝料請求権を生じさせる違法行為とは評価されない。
問題の所在(論点)
保険契約締結に際し、保険会社が地震保険に関する情報提供・説明義務を怠り、契約者の意思決定機会を喪失させた場合、人格的利益の侵害として慰謝料請求が認められるか。
規範
地震保険に加入するか否かの意思決定は、生命・身体等の人格的利益に関するものではなく、財産的利益に関するものである。したがって、保険会社側の情報提供や説明に不十分・不適切な点があったとしても、特段の事情がない限り、慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできない。
事件番号: 平成17(受)2058 / 裁判年月日: 平成18年6月6日 / 結論: その他
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,保険者に対して車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない。
重要事実
阪神・淡路大震災により建物等が焼失した被上告人らは、火災保険契約締結時に保険会社(上告人)から地震免責条項や地震保険に関する説明を十分に受けなかったと主張した。被上告人らは火災保険申込書の「地震保険不加入意思確認欄」に自ら押印していたが、適切な説明がなかったことで加入の意思決定機会を奪われたとして、不法行為や債務不履行等に基づき精神的苦痛に対する慰謝料を請求した。なお、上告人が情報を意図的に秘匿した事実は認められない。
あてはめ
まず、本件申込書には不加入の確認欄があり、①地震保険の存在、②火災保険とは別個であること、③押印により不加入となることの情報は提供されていた。被上告人らはこれらを理解して自ら押印しており、詳細な情報を求める機会も存在した。次に、上告人に意図的な秘匿行為はなかった。以上から、仮に説明に不十分な点があったとしても、本件は財産的利益に関する意思決定の不備に留まり、慰謝料請求を認めるべき「特段の事情」は存しないと解される。
結論
被上告人らの慰謝料請求は認められない。情報提供義務違反があったとしても、直ちに慰謝料請求権を肯認し得る違法行為には該当しない。
実務上の射程
説明義務違反から直ちに慰謝料請求を認めるのではなく、対象となる利益が「人格的利益」か「財産的利益」かで区別する。財産的利益に関する意思決定の機会喪失については、詐欺的勧誘などの特段の事情がない限り、精神的損害の賠償(慰謝料)は否定される傾向にある。実務上は、説明義務違反の対象を慎重に特定して主張する必要がある。
事件番号: 平成16(受)988 / 裁判年月日: 平成16年12月13日 / 結論: 棄却
保険金の支払事由を火災によって損害が生じたこととする火災保険契約の約款に基づき,保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わない。