1 医療用医薬品について製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性」が確保されるためには,その引渡し時点で予見し得る副作用に係る情報が添付文書に適切に記載されているべきである。 2 医療用医薬品について製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性」が確保されるために必要な,その添付文書における副作用に係る情報の記載の適否は,当該医療用医薬品の引渡し時点で予見し得る副作用の内容ないし程度(その発現頻度を含む。),その効能又は効果から通常想定される処方者ないし使用者の知識及び能力,上記添付文書における副作用に係る記載の形式ないし体裁等の諸般の事情を総合考慮して,上記予見し得る副作用の危険性が上記処方者等に十分明らかにされているといえるか否かという観点から判断すべきである。 (1,2につき補足意見がある。)
1 医療用医薬品について製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性」が確保されるために必要な情報とその提供方法 2 医療用医薬品について製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性」が確保されるために必要な添付文書の副作用に係る記載の適否を判断する際に考慮すべき事情及びその判断の観点
(1,2につき)製造物責任法2条2項,薬事法52条,薬事法施行規則(平成15年厚生労働省令第89号による改正前のもの)18条の4の2,薬事法施行規則42条1項
判旨
医療用医薬品の添付文書の記載が製造物責任法上の欠陥に当たるかは、副作用の内容・程度、処方者の知識・能力、記載の形式等を総合考慮し、引渡し当時の知見に照らして予見し得る副作用の危険性が処方者等に十分明らかにされているか否かにより判断すべきである。
問題の所在(論点)
抗がん剤「イレッサ」の添付文書において、間質性肺炎が致死的となり得る旨を「警告」欄等に記載しなかったことが、製造物責任法2条2項の「指示・警告上の欠陥」に該当するか。
規範
医薬品の副作用の存在をもって直ちに「欠陥」(製造物責任法2条2項)があるとはいえない。添付文書の記載が適切か否かは、①副作用の内容・程度(発現頻度を含む)、②当該医薬品の効能・効果から通常想定される処方者(医師等)ないし使用者の知識及び能力、③添付文書における副作用情報の記載形式・体裁等の諸般の事情を総合考慮し、引渡し時点において予見し得る副作用の危険性が処方者等に十分明らかにされているか否かという観点から判断する。
重要事実
被告(被上告人)が輸入販売した抗がん剤「イレッサ」を服用した患者が、副作用の間質性肺炎により死亡した。輸入承認時の添付文書(第1版)には、「警告」欄はなく、「重大な副作用」欄の4番目に間質性肺炎の記載があったが、致死的となり得る旨の明示はなかった。承認時点の臨床試験では、イレッサと死亡との因果関係を積極的に肯定する知見はなく、他の抗がん剤と同程度の副作用と認識されていた。販売開始から約3ヶ月後、早期に発現し急速に進行する特異な症例が相次ぎ、緊急安全性情報が発出された。
あてはめ
イレッサは劇薬・要指示医薬品であり、想定される処方者は肺がん治療を行う医師である。当時の知見では、イレッサによる間質性肺炎の頻度・重篤度は他の抗がん剤と同程度と認識されており、専門医師であれば、抗がん剤による間質性肺炎が致死的となり得ることは公知の事実として認識可能であった。したがって、第1版の記載でも、当時の専門医に対して予見可能な危険性を明らかにするものとして不足はない。また、後に判明した「早期に発現し急速に進行する」という特異な態様の副作用は、引渡し当時の知見では予見不可能であり、その記載がないことをもって不適切とはいえない。
結論
本件添付文書第1版の記載は、引渡し当時において予見し得る副作用について適切であり、指示・警告上の欠陥があるとはいえない。
実務上の射程
開発後の臨床試験で判明した未知の副作用については、引渡し時の知見に基づく予見可能性を基準とするため、PL法上の責任は否定されやすい(開発危険の抗弁に近い論理)。一方で、処方者が専門医であることを前提に、専門家にとっての「常識」を考慮して指示・警告の充足性を判断する枠組みを示しており、高度な専門性が要求される製品全般の欠陥判断に射程が及ぶ。
事件番号: 平成7(オ)1205 / 裁判年月日: 平成9年2月25日 / 結論: 破棄差戻
一 顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤の投与を原因として患者が同症にかかった場合において、鑑定は、右薬剤はいずれも起因剤と断定するには難点があり、発症時期に最も近接した時期に投与されたネオマイゾンが最も疑われるが確証がなく、複数の右薬剤の相互作用により同症が発症することはあり得るものの本件においては右相互作用による…