看護婦から点滴により抗生剤の投与を受けた患者が投与開始直後にアナフィラキシーショックを発症して死亡した場合において,同抗生剤がその発症の原因物質となり得るものであること,当該患者が薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨を申告していたことなど判示の事実関係の下では,担当医師には,上記抗生剤を投与するに当たって,アナフィラキシーショック発症の可能性を予見し,これに備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し投与後の経過観察を十分に行うこと等を指示するとともに,発症後に迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示等をすべき注意義務があり,このような指示をしないで担当看護婦に上記抗生剤の投与を指示したことにつき,上記注意義務を怠った過失がある。
看護婦から点滴により抗生剤の投与を受けた患者が投与開始直後にアナフィラキシーショックを発症して死亡した場合において医師にあらかじめ看護婦に対し投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示等をすべき注意義務を怠った過失があるとされた事例
民法415条,民法709条
判旨
アレルギー体質の申告がある患者に対し、アナフィラキシーショックを惹起する可能性のある薬剤を投与する医師は、ショック発症を予見し、看護師への経過観察指示や迅速な救急処置が可能な医療態勢の確保をすべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
アレルギー体質の申告がある患者に対し、ショックの危険がある薬剤を投与する際、医師に投与後の経過観察指示や救急処置の準備をすべき注意義務(診療上の過失)が認められるか。
規範
医師がアナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合、特にアレルギー反応を起こしやすい体質の患者に対しては、ショック発症の可能性を予見し、(1)看護師に対し投与後の十分な経過観察を指示し、(2)発症時に迅速かつ的確な救急処置(薬剤投与の中止、気道確保、アドレナリン投与等)を執り得る医療態勢をあらかじめ整えておくべき注意義務を負う。
重要事実
患者乙は、風邪薬や食品によるアレルギー体質を事前に申告していた。主治医Y2は詳細を問診せず、術後、ショックの予見性が添付文書に記載されている薬剤(ミノマイシン等)を新たに投与した。Y2は看護師に対し経過観察や救急処置の指示をせず、看護師は点滴開始直後に退室した。乙は数分後にショックを発症したが、薬剤投与の中止が遅れ、アドレナリン投与等の救急処置が行われたのは発症から約40分後であり、乙は死亡した。
あてはめ
本件各薬剤は添付文書でショックへの注意が喚起されており、乙のアレルギー体質の申告からショック発症の予見可能性は認められた。それにもかかわらず、Y2は、薬剤静注によるショックが通常5分以内に発症し、早期の救急処置が予後を左右するという医学的知見に反し、看護師への観察指示や救急態勢の連絡を怠った。その結果、薬剤の中止や救急処置が大幅に遅延したといえ、Y2には注意義務違反(過失)が認められる。
結論
主治医Y2には、薬剤投与に際しての経過観察指示及び救急処置の準備に関する注意義務を怠った過失が認められる。
実務上の射程
医療過誤訴訟における注意義務の具体化に関する重要判例。アレルギー体質の申告がある場合の予見可能性を肯定し、医師個人の手技だけでなく、看護師への指示を含むチーム医療としての管理態勢も注意義務の内容となることを示した。答案では「期待される医療水準」を論じる際、添付文書の記載や患者の個別事情(アレルギー申告)を重視する規範として活用する。
事件番号: 平成12(受)1556 / 裁判年月日: 平成14年11月8日 / 結論: 破棄差戻
医薬品添付文書に過敏症状と皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)の副作用がある旨記載された薬剤等を継続的に投与されている患者に副作用と疑われる発しん等の過敏症状の発生が認められたことなど判示の事実関係の下においては,当時の医療上の知見において過敏症状が同症候群へ移行することを予測し得たものとすれば,医師は…