海上物品運送業者が危険物であることを知って運送品を運送する場合において、通常尽くすべき調査により、その危険性の内容、程度及び運搬、保管方法等の取扱上の注意事項を知り得るときは、右危険物の製造業者及び販売業者は、海上物品運送業者に対し、右の危険性の内容等を告知する義務を負わない。
危険物であることを知ってこれを運送する海上物品運送業者に対し右危険物の製造業者及び販売業者が危険性の内容等を告知する義務の有無
民法709条
判旨
危険物の製造・販売業者は、海上物品運送業者がその危険性を認識しており、かつ通常尽くすべき調査によってその詳細や取扱上の注意事項を容易に知り得るときは、当該運送業者に対し、それらを告知する義務を負わない。
問題の所在(論点)
危険物の製造・販売業者が、流通関与者(海上物品運送業者)に対して負う「危険性及び取扱上の注意事項に関する周知・告知義務」の成否とその限界。
規範
危険物を製造・販売する者は、原則として、その危険が現実化することを避けるため、危険性の内容、程度及び適切な取扱方法等の注意事項を流通関与者が容易に知り得るように周知させる義務を負う。もっとも、海上物品運送業者は、危険物であることを知りながら運送する場合には、事故防止のため自ら調査し適切な積付け等を実施すべき注意義務を負っている。したがって、海上物品運送業者が、通常尽くすべき調査により当該危険物の内容や注意事項を「知り得るとき」は、製造・販売業者は告知義務を負わない。
重要事実
化学メーカーA1は、高度さらし粉を製造し、子会社A2を通じて販売した。海上運送業者X(被上告人)は、本件さらし粉の運送を引き受けた際、荷送人から「有機還元剤と接触させてはならない」旨の連絡表や、酸化剤としての危険性が記載された化学辞典の写しを受け取っていた。しかし、Xの積荷監督は専門知識を欠き、本件さらし粉を引火性液体(キシレン)を含む農薬ドラム缶と近接して積み付けた。その結果、ドラム缶からの漏洩・混触により火災・爆発事故が発生し、Xは船主から損害賠償請求を受けた。Xは、製造業者A1らに対し、危険性の周知義務違反(不法行為)に基づく求償を求めて提訴した。
あてはめ
まず、海上物品運送業者であるXは、荷送人から交付された連絡表等により、本件運送品が高度さらし粉であって発火の危険性を有するものであることを現に認識していた。また、Xが運送を引き受けた当時、船舶内には国際的に権威のある「イムココード(国際危険物海上運送規則)」や「ブルーブック」が備え付けられていた。これらの資料を参照して調査を行えば、高度さらし粉の具体的な危険性や、引火性液体との隔離積付けが必要であるという注意事項を容易に知り得たといえる。したがって、Xは通常尽くすべき調査によって本件事故を回避するために必要な情報を入手可能であったと解される。
結論
製造・販売業者であるA1らは、Xに対して本件高度さらし粉の危険性等を告知すべき義務を負っていたとはいえない。よって、A1らの不法行為責任は成立せず、Xの請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は、製造物責任法(PL法)施行前の事案であるが、不法行為法上の指示・警告上の欠陥(指示・警告義務)の有無を判断する際の「情報の受け手側の専門性・調査可能性」による義務の相対化を示唆する。特に、プロの業者間の取引において、相手方が専門的調査により回避可能なリスクについてまで製造者が責任を負うわけではないという論理として、答案上のあてはめで活用できる。
事件番号: 昭和43(オ)646 / 裁判年月日: 昭和43年12月17日 / 結論: 棄却
電気かんな等の製造業者は、その製品の形態構造に関する設計に当たり、その製品が、通常人により、その本来の目的に従い、通常の注意をもつて、操作され使用されることを前提として、危険防止の措置をすれば足りる。