石綿含有建材が使用された建物の解体作業に従事した者が石綿肺、肺がん等の石綿関連疾患にり患した場合において、次の⑴、⑵など判示の事情の下では、建材メーカーが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務を負っていたとはいえない。 ⑴ 石綿含有建材自体に上記の情報を記載する方法や、当該情報を記載したシール又は注意書等を当該建材に添付する方法は、上記の者が石綿粉じんにばく露する危険を回避するための当該情報の表示方法として実現性又は実効性に乏しいものであった。 ⑵ 建材メーカーは、その製造販売した石綿含有建材が使用された建物の解体に関与し得る立場になかった。
建材メーカーが、石綿含有建材の製造販売に当たり、当該建材が使用される建物の解体作業に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務を負っていたとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
建材メーカーは、石綿含有建材の製造販売に当たり、将来の解体作業従事者に対して警告情報を表示すべき不法行為上の義務を負わない。解体時まで情報を伝達する方法に実効性が乏しく、メーカーは解体作業に関与し得る立場にないためである。
問題の所在(論点)
建材メーカーは、建材が使用される建物の将来の「解体作業従事者」に対し、粉じん曝露による健康被害の危険性(警告情報)を表示すべき不法行為上の義務を負うか。
規範
製造物責任法(または民法709条の注意義務)の文脈における警告表示義務の有無は、表示方法の実現性・実効性、及び製造者が当該危険が生じる過程に関与し得る立場にあるか否かによって判断される。将来の作業員に対する情報伝達が長期間の経過や建材の性質上困難であり、かつ製造者が作業現場の安全確保を支配できない場合には、特段の事情がない限り、警告表示義務を肯定することはできない。
重要事実
石綿(アスベスト)含有建材を製造販売したメーカー(上告人ら)に対し、解体作業に従事して石綿肺等に罹患した作業員やその遺族(被上告人ら)が、警告表示義務違反を理由に損害賠償を請求した。原審は、建材自体への記載やシール貼付、注意書の交付を求める文書の添付などの方法で警告すべき義務があったと認めたが、メーカー側が上告した。
あてはめ
まず、原審が挙げた表示方法は、建材の加工や一体化による視認困難、シールの経年劣化、長期間経過による注意書の紛失などの事情から、解体作業員に情報が届く蓋然性が低く、実現性・実効性に乏しい。次に、メーカーは建材の販売後は建物の解体に関与できる立場になく、解体作業の安全確保は、解体時の状況を調査すべき立場にある解体事業者が職業上の知見に基づいて行うべきものである。したがって、メーカーが警告義務を負うべき根拠は認められない。
結論
建材メーカーに警告表示義務があるとはいえず、解体作業に従事したことのみを理由とする賠償請求は認められない。
実務上の射程
石綿訴訟において、直接の建設作業員(使用作業者)に対する義務とは区別し、将来の「解体作業員」に対するメーカーの不法行為責任を否定した射程の明確な判例である。製品の性質上、流通・使用から廃棄・解体までの期間が極めて長く、製造者が関与できない後続工程の作業者に対しては、警告表示義務が制限されることを示している。
事件番号: 平成31(受)491 / 裁判年月日: 令和3年5月17日 / 結論: その他
屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより肺がんにり患した場合において,次の⑴~⑶など判示の事情の下では,建材メーカーが,昭和50年から平成2年までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていること…