1 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,国が,平成13年から平成16年9月30日までの期間に,上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,厚生労働大臣が,平成14年1月1日から平成16年9月30日までの期間に,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けなかったことは,上記作業に従事する者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。 ⑴ 平成13年から平成16年9月30日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。 ⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。 ⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。 ⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。 ⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。 2 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,建材メーカーが,平成13年から平成15年12月31日までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,平成14年1月1日から平成15年12月31日までの期間に,上記の者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえない。 ⑴ 平成13年から平成15年12月31日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。 ⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。 ⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。 ⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。 ⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
1 厚生労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例 2 建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例
(1につき)国家賠償法1条1項,労働安全衛生法22条,労働安全衛生法23条,労働安全衛生法27条,労働安全衛生法57条 (2につき)民法709条
判旨
屋外建設作業において石綿粉じんにばく露したことによる損害につき、国が規制権限を行使しなかったこと、および建材メーカーが表示義務を怠ったことは、当時の科学的知見等に照らし危険の認識可能性があったとはいえず、国家賠償法上および不法行為法上の違法性は認められない。
問題の所在(論点)
1. 国が屋外建設作業者に対し、石綿の危険性に関する掲示等の義務付けを怠ったことが、国家賠償法1条1項において違法といえるか。 2. 建材メーカーが石綿含有建材に危険性の表示を行わなかったことが、不法行為法上の過失(表示義務違反)を構成するか。
規範
1. 国の規制権限不行使の違法性:労働安全衛生法に基づく規制権限の不行使が、国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは、権限の趣旨・目的や性質に照らし、その不行使が著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。 2. 建材メーカーの表示義務:不法行為法上の表示義務(警告表示義務)の有無は、建材の通常予想される使用形態において、人の生命・健康に損害を及ぼす危険があることを、当時の科学的知見等に照らして認識し、または認識し得たか否かによって判断される。
重要事実
1. 被害者Aは屋外建設現場で屋根工として従事し、石綿含有建材(スレート等)を電動丸のこ等で切断する作業により石綿粉じんにばく露し、中皮腫にり患した。 2. 当時の国の管理濃度は2本/cm3であり、日本産業衛生学会の評価値(0.15本/cm3)は、50年間の継続ばく露を前提とした発がんリスクの指標であった。 3. 屋外作業の測定結果では、0.15本/cm3を超える数値も一部見られたが、多くは短時間の測定であり、かつ0.15本/cm3を下回る測定結果も多数存在していた。 4. 屋外は屋内と異なり自然換気により粉じん濃度が希釈される特性があった。
あてはめ
1. 認識可能性の否定:原審が依拠した測定結果のうち、一部は平成16年以降に公表されたものであり、当時の国やメーカーが認識し得なかった。また、0.15本/cm3という数値は学会の勧告値にすぎず、短時間の作業において直ちに健康被害のリスクが生じると認識すべき根拠とはいえない。 2. 屋外作業の特殊性:屋外建設作業における測定結果は、全体として屋内作業を大きく下回っている。これは風による自然換気の影響であると解され、屋内作業と同等の危険性が屋外でも生じていると認識することは困難であったといえる。 3. 結論への帰結:以上から、国およびメーカーにおいて、平成13年から16年当時、屋外作業に従事する者に重篤な石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識できたとは認められない。
結論
国が規制権限を行使しなかったこと、および建材メーカーが表示義務を怠ったことは、いずれも違法とはいえず、損害賠償請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は、屋内建設作業における国の賠償責任を認めた従来の判例を踏まえつつ、屋外作業については粉じんの拡散状況や当時の科学的認識の到達度の違いを理由に、違法性を否定したものである。
事件番号: 平成30(受)1447 / 裁判年月日: 令和3年5月17日 / 結論: その他
1 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等…