屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより肺がんにり患した場合において,次の⑴~⑶など判示の事情の下では,建材メーカーが,昭和50年から平成2年までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,上記期間に,上記の者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえない。 ⑴ 上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には低い数値が示されている。 ⑵ 上記作業に従事する者が石綿含有建材の切断作業に従事するのは就業時間中の限られた時間であり,上記測定結果は主にその切断作業をしている限られた時間につき個人ばく露濃度を測定したものであることからすれば,上記の者が就業時間を通じてばく露する石綿粉じんの平均濃度は上記測定結果より低い数値になるということができる。 ⑶ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
労働安全衛生法に基づく規制権限は、労働者だけでなく一人親方等の建設作業従事者も保護対象として行使されるべきであり、国がこれを行使しなかったことは国家賠償法1条1項の適用上違法である。一方、建材メーカーの表示義務については、屋外建設作業における粉じん濃度が健康被害を生じさせる程度であることを認識可能であったとはいえず、不法行為上の義務違反は否定される。
問題の所在(論点)
1. 労働安全衛生法に基づく国の規制権限は、労働者に該当しない「一人親方等」も保護対象とするか、またその不行使が違法となるか。 2. 建材メーカーは、屋外建設作業に従事する者に対しても、石綿の危険性を表示する義務を負っていたか(予見可能性の有無)。
規範
1. 労働安全衛生法に基づく規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかは、同法の趣旨・目的や権限の性質に照らし、その不行使が著しく合理性を欠くか否かによって判断される。同法の規制権限は、労働者に該当しない建設作業従事者(一人親方等)を保護するためにも行使されるべきものである。 2. 建材メーカーの不法行為上の不作為責任(表示義務違反)については、当該作業環境下でのばく露により重篤な疾患にり患する危険があることをメーカーが認識し、または認識し得たといえることが必要である。
重要事実
1. 建設作業に従事し石綿(アスベスト)粉じんにばく露して肺がんにり患したA(事業主・一人親方)の遺族が、国に対し規制権限の不行使を理由に国家賠償を請求した。 2. 屋外建設作業に従事し肺がんにり患したBの遺族が、石綿建材メーカーに対し、危険性の表示を怠ったとして損害賠償を請求した。 3. 屋外作業の測定データ(測定結果①②)では粉じん濃度は比較的低く、屋内(③〜⑤)と比して自然換気の影響で濃度が薄まる状況にあった。
あてはめ
1. 規制権限の行使義務について:労働大臣は昭和50年10月時点で安衛法に基づき、石綿の危険性等を掲示させるよう指導監督すべきであった。この権限は一人親方等の保護も含めて行使されるべきものであり、屋内作業場に準ずる現場で作業したAとの関係でも、権限不行使は著しく合理性を欠き違法である。 2. メーカーの表示義務について:屋外建設作業は就業時間中の切断作業が限られ、測定結果も屋内より大幅に低い。屋外では自然換気が行われるため、作業者が就業時間を通じて健康被害が生じるほどの高濃度ばく露を受けると認識できたとは認められない。したがって、昭和50年から平成2年当時において、屋外作業者に対する表示義務は発生しない。
結論
1. 国に対する請求について:Aが労働者に該当しないことを理由に請求を棄却した原判決を破棄し、差し戻す。 2. メーカーに対する請求について:屋外作業者に対する表示義務違反を認めた原判決を破棄し、請求を棄却する。
実務上の射程
労働安全衛生法の保護対象を「労働者」に限定せず、実態として同様の危険に晒される一人親方等へ拡大した点に重要な意義がある。他方、メーカーの責任については、屋内作業と屋外作業の環境差(換気状況や濃度データ)を厳格に区別し、予見可能性の有無を判断する枠組みを示しているため、屋外作業事案での過失認定は慎重に検討すべきである。
事件番号: 平成30(受)1447 / 裁判年月日: 令和3年5月17日 / 結論: その他
1 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等…