石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者が石綿の粉じんにばく露したことにより石綿肺等の石綿関連疾患にり患した場合において,昭和33年当時,(1)石綿肺に関する医学的知見が確立し,国も石綿の粉じんによる被害の深刻さを認識していたこと,(2)上記の工場等における石綿の粉じん防止策として最も有効な局所排気装置の設置を義務付けるために必要な技術的知見が存在していたこと,(3)従前からの行政指導によっても局所排気装置の設置が進んでいなかったことなど判示の事情の下では,石綿に関する作業につき局所排気装置の設置の促進を指示する通達が発出された同年5月26日以降,労働大臣が労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使して罰則をもって上記の工場等に局所排気装置を設置することを義務付けなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
国家賠償法1条1項,労働基準法1条,労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)42条,労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)43条,労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)45条,労働安全衛生法22条,労働安全衛生法23条,労働安全衛生法27条
判旨
労働大臣が、石綿肺の医学的知見が確立し局所排気装置の技術が普及した昭和33年5月26日時点で、旧労働基準法に基づく省令制定権限を行使して石綿工場への同装置設置を義務付けなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法である。
問題の所在(論点)
労働大臣が、旧労働基準法45条に基づく省令制定権限を行使して、石綿工場における局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上違法となるか。
規範
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
重要事実
大阪府泉南地域の石綿工場の元従業員らが、石綿粉じんにばく露し石綿肺等に罹患した。昭和33年3月頃には石綿肺の医学的知見が確立し、同32年には局所排気装置の技術的知見も資料化されていたが、労働省は通達による行政指導に留まり、省令による設置義務付け(罰則付き)を昭和46年まで行わなかった。
あてはめ
旧労基法及び安衛法の目的は労働者の生命・身体の安全確保にある。昭和33年当時、石綿肺の被害は深刻で、局所排気装置の設置が最も有効な対策であり、かつその技術も実用化されていた。行政指導では設置が進んでいなかった実態に鑑みれば、罰則を伴う義務付けが可能な段階で速やかに権限を行使すべきであった。これを怠ったことは、法令の趣旨に照らし著しく合理性を欠くといえる。
結論
昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間、労働大臣が省令制定権限を行使しなかったことは違法であり、国は損害賠償責任を負う。
実務上の射程
専門的・技術的な裁量が認められる行政権限であっても、国民の生命・身体に重大な危害が及ぶ予見可能性があり、回避手段が確立している場合には、権限の不行使が「著しく合理性を欠く」として違法となり得ることを示した。
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