1 炭鉱で粉じん作業に従事した労働者が粉じんの吸入によりじん肺にり患した場合において,炭鉱労働者のじん肺り患の深刻な実情及びじん肺に関する医学的知見の変遷を踏まえて,じん肺を炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じたものを広く含むものとして定義し,これを施策の対象とするじん肺法が成立したこと,そのころまでには,さく岩機の湿式型化によりじん肺の発生の原因となる粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかとなっており,金属鉱山と同様に,すべての石炭鉱山におけるさく岩機の湿式型化を図ることに特段の障害はなかったのに,同法成立の時までに,鉱山保安法に基づく省令の改正を行わず,さく岩機の湿式型化等を一般的な保安規制とはしなかったことなど判示の事実関係の下では,じん肺法が成立した後,通商産業大臣が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 2 民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する。
1 通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例 2 加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合における民法724条後段所定の除斥期間の起算点
国家賠償法1条1項,鉱山保安法1条,鉱山保安法4条,鉱山保安法(昭和37年法律第105号による改正前のもの)30条,じん肺法(昭和52年法律第76号による改正前のもの)2条1項1号,石炭鉱山保安規則(昭和61年通商産業省令第74号による改正前のもの)284条の2,民法724条
判旨
石炭鉱山におけるじん肺被害について、国の保安規制権限の不行使が国家賠償法1条1項上違法であると認め、また、じん肺のような遅発性疾患については損害発生時を民法724条後段(旧法)の除斥期間の起算点とした。
問題の所在(論点)
1. 鉱山保安法に基づく通商産業大臣の省令制定権限等の不行使が、国賠法1条1項の適用上違法となるか。 2. じん肺のような潜伏期間のある疾病において、除斥期間(20年)の起算点はいつか(加害行為時か損害発生時か)。
規範
1. 規制権限の不行使が国賠法1条1項上違法となるのは、法令の趣旨・目的や権限の性質に照らし、具体的事情下で不行使が許容限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合である。 2. 民法724条後段(旧法)の除斥期間の起算点は、不法行為の性質上、加害行為終了から相当期間経過後に損害が発生する場合、損害の全部または一部が発生した時と解する。
事件番号: 平成13(受)1759 / 裁判年月日: 平成16年4月27日 / 結論: 棄却
1 雇用者の安全配慮義務違反によりり患したじん肺によって死亡したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,死亡の時から進行する。 2 じん肺による死亡に基づく損害額の算定において,じん肺法所定の管理区分に相当する病状に基づく損害賠償請求権の消滅時効が完成しているとしても,上記死亡に基づく損害を,上記病状に基づく損害と…
重要事実
石炭鉱山の元従業員らが、粉じん作業によりじん肺にり患した。国は、金属鉱山では昭和27年に湿式さく岩機を義務付けた一方、石炭鉱山では「けい酸質区域」に限定した規制を維持し、昭和35年のじん肺法制定後も全般的な義務化を昭和61年まで怠った。国はじん肺の深刻な実情や医学的知見(全粉じんの有害性)を昭和34年頃には把握しており、技術的にも湿式化の障害はなかった。
あてはめ
1. 鉱山保安法は労働者の生命・身体の安全確保を目的とし、最新の医学的知見に基づき適時に権限を行使すべき性質を有する。昭和35年3月のじん肺法成立時には、石炭鉱山における深刻な被害実態や全粉じんの有害性が判明しており、湿式化も技術的に可能であった。それにもかかわらず規制を改めなかったことは著しく合理性を欠き、違法といえる。 2. じん肺は粉じん暴露終了から相当期間後に発症する進行性・不可逆的な疾患である。損害発生を待たずに除斥期間の進行を認めるのは被害者に著しく酷であり、国も被害の発生を予期すべきであった。したがって、損害発生時を起算点とすべきである。
結論
1. 昭和35年4月以降に保安規制権限を行使しなかったことは違法であり、国の賠償責任が認められる。 2. 除斥期間は損害発生時から進行するため、本件請求権は消滅していない。
実務上の射程
規制権限の不行使が違法となる基準(著しく合理性を欠く場合)を示したリーディングケース。特に生命・身体への危害防止を目的とする法律において、専門的・技術的知見の更新に合わせた「適時・適切な権限行使」が求められることを明確にしている。また、除斥期間の起算点に関する「損害発生時」説は、公害・薬害などの遅発性疾患事案での標準的な規範となる。
事件番号: 平成1(オ)1667 / 裁判年月日: 平成6年2月22日 / 結論: その他
一 雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行する。 二 炭鉱労務に従事してじん肺にかかった者又はその相続人が、雇用者に対し、財産上の損害の賠償を別途請求する意思のない旨を訴訟上明らかにして慰謝料の支払を…
事件番号: 平成22(受)1163 / 裁判年月日: 平成25年7月12日 / 結論: 破棄差戻
壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物で昭和45年から平成14年まで勤務していた間にその石綿の粉じんにばく露したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患した者の相続人が,同建物の所有者に対し,民法717条1項ただし書の規定に基づく損害賠償を求める訴訟において,原審が,同建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったの…