一 雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行する。 二 炭鉱労務に従事してじん肺にかかった者又はその相続人が、雇用者に対し、財産上の損害の賠償を別途請求する意思のない旨を訴訟上明らかにして慰謝料の支払を求めた場合に、じん肺が重篤な進行性の疾患であって、現在の医学では治療が不可能とされ、その症状も深刻であるなど判示の事情の下において、その慰謝料額を、じん肺法所定の管理区分に従い、死者を含む管理四該当者につき一二〇〇万円又は一〇〇〇万円、管理三該当者につき六〇〇万円、管理二該当者につき三〇〇万円とした原審の認定には、その額が低きに失し、著しく不相当なものとして、経験則又は条理に反する違法がある。
一 雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点 二 慰謝料額の認定に違法があるとされた事例
じん肺法4条,じん肺法13条,民法166条1項,民法415条,民法710条,民訴法394条
判旨
じん肺のような特異な進行性疾患において、病状の悪化に伴い重い行政上の決定を受けた場合、当該損害賠償請求権の消滅時効は最終の行政上の決定を受けた時から進行する。また、財産上の損害を別途請求しない旨を宣明している場合の慰謝料額の算定は、事実上の全損害の填補としての性格を考慮すべきであり、裁判所の広い裁量にも社会通念上の限界がある。
問題の所在(論点)
1. 進行性疾患であるじん肺による損害賠償請求権の消滅時効の起算点(民法166条1項)。 2. 財産上の請求を別途行わない場合の慰謝料額算定における裁判所の裁量の限界。
規範
1. 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効(民法167条1項、166条1項)の起算点は「権利を行使し得る時」である。じん肺のように病状の進行が多様かつ不可逆的で、重い症状に基づく損害が後から発生する特異な疾患については、最初の決定時点で将来の損害まで予見・請求することは不可能であるため、質的に異なる損害が生じたといえる「最終の行政上の決定を受けた時」から時効が進行する。 2. 慰謝料額の認定は原則として裁判所の裁量に属するが、他に財産上の請求権を留保しない形で提訴されている場合、その裁量権の行使は、被害者の労働能力喪失や生活窮迫等の実態を考慮し、社会通念上相当な範囲内でなければならない。
重要事実
被告(被上告人)が経営する炭鉱に従事し、じん肺に罹患した元従業員らが、安全配慮義務違反に基づき損害賠償(主に慰謝料)を請求した。原告らの中には、最初の行政上の決定(管理2等)から10年以上経過しているが、最終的な重い決定(管理4等)からは10年以内である者が含まれていた。また、原告らは財産上の損害を別途請求しない意思を示していたが、原審は管理4の重症者(死者含む)に対し、1,000万〜1,200万円という比較的低額な慰謝料額を算定した。
あてはめ
1. じん肺は粉じん量に対応して進行し、現在の医学では将来の進行予測が不可能である。管理2の時点で管理4の損害賠償を求めることは不可能であり、重い決定に相当する損害は質的に異なる。よって「最終の行政上の決定」時まで時効は進行しない。これを「最初の決定時」とした原審は、疾患の実態を無視しており、166条1項の解釈を誤っている。 2. 原告らは別途の財産的損害を請求しない旨を拘束的に宣明しており、慰謝料額に全損害の填補を委ねている。管理4の者は呼吸困難や生活窮迫により労働能力を完全に喪失している点において、死亡や全労働能力喪失と同等の精神的苦痛がある。これを考慮せず低額に抑えた原審の裁量判断は、経験則・条理に反し、社会通念上の容認範囲を超えている。
結論
1. 時効の起算点は最終の行政上の決定時であり、当該時点から10年を経過していない請求は認められる。 2. 算定された慰謝料額は著しく不相当であり、損害評価に関する法令の解釈適用に違法があるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
消滅時効の起算点に関する「権利行使が可能となった時」の解釈において、損害の発生が時間的に遅れて顕在化する進行性疾患や後遺障害の事案で活用できる。また、慰謝料のみを請求する際の額の妥当性について、裁量権逸脱を主張する際の論拠となる。
事件番号: 平成13(受)1759 / 裁判年月日: 平成16年4月27日 / 結論: 棄却
1 雇用者の安全配慮義務違反によりり患したじん肺によって死亡したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,死亡の時から進行する。 2 じん肺による死亡に基づく損害額の算定において,じん肺法所定の管理区分に相当する病状に基づく損害賠償請求権の消滅時効が完成しているとしても,上記死亡に基づく損害を,上記病状に基づく損害と…
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