電力会社が設置し運営する原子力発電所の原子炉に係る建屋の敷地に地震に伴う津波が到来し、上記建屋の中に海水が浸入して上記原子炉に係る原子炉施設が電源喪失の事態に陥った結果、上記原子炉施設から放射性物質が大量に放出される原子力事故が発生した場合において、次の(1)~(6)など判示の事情の下では、経済産業大臣が上記発電所の沖を含む海域の地震活動の長期評価に関する文書を前提に電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使して津波による上記発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを上記電力会社に義務付けていれば上記原子力事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国が、経済産業大臣が上記の規制権限を行使しなかったことを理由として、上記原子力事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染された者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うということはできない。 (1) 上記原子力事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合、防潮堤、防波堤等の構造物を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することを基本とするものであった。 (2) 上記原子力事故以前に、津波により上記敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤、防波堤等の構造物を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分であるとの考え方が有力であったことはうかがわれず、その他、上記原子力事故以前の知見の下において、上記措置が原子炉施設の津波対策として不十分なものであったと解すべき事情はうかがわれない。 (3) 上記原子力事故以前に上記電力会社の委託により上記文書に基づいて行われた上記発電所に到来する可能性のある津波の試算は、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であった。 (4) 上記文書が今後発生する可能性があるとした地震の規模は、津波マグニチュード8.2前後であったのに対し、現実に発生した地震の規模は、津波マグニチュード9.1であった。 (5) 上記の試算された津波による上記建屋付近の浸水深は、約2.6m又はそれ以下とされたのに対し、現実に到来した津波による上記建屋付近の浸水深は、最大で約5.5mに及んだ。 (6) 上記の試算された津波の高さは、上記建屋の敷地の南東側前面において上記敷地の高さを超えていたものの、東側前面においては上記敷地の高さを超えることはなく、上記津波と同じ規模の津波が上記発電所に到来しても、上記敷地の東側から海水が上記敷地に浸入することは想定されていなかったが、現実には、津波の到来に伴い、上記敷地の南東側のみならず東側からも大量の海水が上記敷地に浸入した。 (補足意見及び反対意見がある。)
国が、津波による原子力発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使しなかったことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例
国家賠償法1条1項、電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)39条1項、電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの40条
判旨
国(経済産業大臣)が電気事業法に基づく規制権限を行使し、東京電力に津波対策を義務付けなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例。
問題の所在(論点)
経済産業大臣が電気事業法40条に基づく規制権限を行使しなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上違法となるか。特に、権限を行使していれば本件事故の発生を回避できたか(相当因果関係の有無)。
規範
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときである。また、賠償責任を負うためには、公務員が規制権限を行使していれば被害者が被害を受けることはなかったであろうという関係(相当因果関係)が認められなければならない。
重要事実
本件は、福島第一原発事故の被災者が、国が電気事業法に基づく規制権限を行使して東京電力に適切な津波対策を命じなかった不作為の違法を問うた事案である。2002年に地震調査委員会が公表した「本件長期評価」に基づき、2008年に東京電力は最大15.7mの津波が到来する「本件試算」を得ていたが、具体的な対策は講じられていなかった。2011年、東日本大震災が発生し、M9.0、津波マグニチュード9.1という本件長期評価(Mt8.2前後)をはるかに上回る規模の地震・津波が襲来。敷地(海抜10m)が浸水し、全電源喪失により炉心損傷等の事故が発生した。
あてはめ
当時、原子炉施設の津波対策は、防潮堤等により敷地への浸水を防止する「ドライサイトコンセプト」が基本とされていた。経済産業大臣が権限を行使したとしても、本件試算(最大15.7m)に基づき、南東側からの浸水を防ぐ防潮堤等の設置を義務付けるにとどまった蓋然性が高い。これに対し、実際に到来した本件津波は、本件長期評価をはるかに上回る規模(Mt9.1)であり、波高が高いだけでなく、南東側のみならず東側からも大量の海水が浸入するものであった。当時の知見の下で設計される防潮堤等では、本件津波の浸入を防ぐことはできなかった可能性が高い。したがって、規制権限を行使していても、本件事故と同様の事故が発生した可能性が相当にあり、権限行使と事故回避の間の因果関係を認めることはできない。
結論
経済産業大臣が規制権限を行使していれば本件事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国は国家賠償法1条1項の損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
大規模災害における国の規制権限の不行使について、当時の専門的知見に基づく「予見可能性」があったとしても、実際に発生した災害の規模が予見の範囲を大きく超える場合、結果回避可能性(因果関係)が否定され、国の責任が免責されうることを示した。
事件番号: 平成31(受)491 / 裁判年月日: 令和3年5月17日 / 結論: その他
屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより肺がんにり患した場合において,次の⑴~⑶など判示の事情の下では,建材メーカーが,昭和50年から平成2年までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていること…