繁華街に位置する建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。 (1) 上記看板等は,上記店舗の営業の用に供されており,建物の地下1階部分と社会通念上一体のものとして利用されてきた。 (2) 賃借人において上記看板等を撤去せざるを得ないこととなると,建物周辺の通行人らに対し建物の地下1階部分で上記店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われ,その営業の継続は著しく困難となる。 (3) 上記看板等の設置が建物の所有者の承諾を得たものであることは,譲受人において十分知り得たものである。 (4) 譲受人に上記看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも,上記看板等が存在することにより譲受人の建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることが権利の濫用に当たるとされた事例
民法1条3項,借地借家法31条1項
判旨
建物の賃借人が所有者の承諾を得て設置した看板等が、営業継続に不可欠な強い必要性がある一方で、新所有者に特段の利用目的や支障がない場合、新所有者による撤去請求は権利の濫用に当たる。
問題の所在(論点)
建物の賃借部分(地下1階)ではない箇所(1階外壁等)に設置された看板等について、建物の譲受人による撤去請求が権利の濫用に当たるか。
規範
所有権に基づく妨害排除請求としての看板等撤去請求が認められるか否かは、看板等の利用の必要性と、設置による所有権行使への支障等の諸事情を比較衡量し、権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かによって判断すべきである。
重要事実
建物の地下1階部分を賃借し「そば屋」を営む上告人が、前所有者Aの承諾を得て、地下1階へ続く1階階段入口付近の外壁等に看板等を設置していた。その後、建物がBを経て被上告人に転売された際、売買契約書には賃借権の負担や看板等の存在が記載されていた。被上告人は上告人に対し、所有権に基づき看板等の撤去を求めた。
あてはめ
上告人の看板等は、店舗営業の用に供され建物部分と社会通念上一体として利用されてきた。これらが撤去されると繁華街における通行人への宣伝手段が失われ、営業継続が著しく困難となるため、上告人には強い必要性がある。他方、被上告人は看板等の存在を十分知り得た立場にあり、かつ、設置箇所の具体的な利用目的や所有権行使への具体的な支障もうかがわれない。したがって、撤去請求は上告人に過大な損害を強いるものである。
結論
被上告人による看板等の撤去請求は、権利の濫用に当たり許されない。よって、被上告人の請求を棄却すべきである。
実務上の射程
賃借権自体の対抗力の問題(借地借家法31条)とは別に、権利の濫用(民法1条3項)という一般条項による解決を図った。テナントビル等の看板設置箇所が専有部分外であっても、営業上の不可欠性が高い場合には、新オーナーからの撤去請求を拒絶し得る有力な根拠となる。
事件番号: 昭和25(オ)2 / 裁判年月日: 昭和25年7月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約終了後の家屋明渡請求は、賃借人に移転先がない等の事情があっても、賃貸人に店舗経営の必要性があり、数次の明渡猶予を経てなお履行されない場合には、権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:賃貸借期間が満了し、賃借人には家屋明渡義務が発生していた。賃貸人は賃借人の求めに応じ…
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…