判旨
賃貸借契約終了後の家屋明渡請求は、賃借人に移転先がない等の事情があっても、賃貸人に店舗経営の必要性があり、数次の明渡猶予を経てなお履行されない場合には、権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。
問題の所在(論点)
賃貸借終了に基づく家屋明渡請求において、賃借人に移転先がない等の困窮事情がある場合に、民法1条3項(権利の濫用)に基づき請求を拒絶できるか。
規範
家屋明渡請求が権利の濫用となるのは、請求者に何ら利益がなく、相手方に不当な損害を及ぼす場合や、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような特別の事情がある場合に限られる。
重要事実
賃貸借期間が満了し、賃借人には家屋明渡義務が発生していた。賃貸人は賃借人の求めに応じ、約3年間にわたり2度も明渡を猶予したが、期間満了後も明渡は実行されなかった。一方で、賃貸人は終戦により再開可能となった自転車営業の店舗として当該家屋を使用する必要性に迫られ、本訴を提起した。賃借人は、移転先が見つからないことや、明渡に努力していることを理由に、本件請求が権利の濫用であると主張した。
あてはめ
本件では、賃貸人は自身の家業である自転車店経営のために店舗として当該家屋を使用する必要性があり、請求に正当な利益が認められる。また、賃借人は既に3年もの猶予期間を得ながら義務を履行しておらず、単に移転先がないことや明渡の努力をしているという事情だけでは、請求が社会通念上の相当性を欠く「特別の事情」があるとはいえない。したがって、賃借人が受ける不利益を考慮しても、本件請求は不当に損害を及ぼすものとは評価できない。
結論
本件明渡請求は権利の濫用には当たらず、適法である。
実務上の射程
権利の濫用の成否を判断する際、権利行使側の必要性と、相手方の不利益を比較衡量する枠組みを示す。特に建物明渡請求において、明渡猶予期間の経過や賃貸人の自己使用の必要性が、権利濫用を否定する重要な考慮要素となることを示唆している。
事件番号: 昭和25(オ)54 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法295条2項の類推適用により、賃貸借終了後の不法占有中に支出した有益費等に基づき留置権を主張することは認められない。 第1 事案の概要:建物の賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)から正当事由に基づく解約申入れを受けた。賃貸借契約は、申入れから6ヶ月の経過により終了したが、上告人は建物を明け渡…