広域連合がし尿及び浄化槽汚泥の積替え保管施設等の用地として土地を賃借する契約につき,上記用地を確保するため当該土地を賃借する必要性,上記施設の性質に伴う用地確保の緊急性や困難性といった事情について十分に考慮することなく,当該契約において鑑定評価を経ずに定められた賃料額が私的鑑定において適正とされた賃料額と比較して高額であることをもって直ちに,当該契約が違法に締結されたものでありその賃料の約定が私法上無効であるとした原審の判断には,違法がある。
広域連合が土地を賃借する契約につき賃料額が私的鑑定において適正とされた賃料額より高額であることを理由として当該契約が違法でありその賃料の約定が無効であるとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方自治法2条14項,地方自治法242条の2第1項1号,地方自治法242条の2第1項4号,地方自治法292条,地方財政法4条1項
判旨
地方公共団体の長が不動産賃借契約を締結する際の賃料額の決定は、賃借の目的、必要性、用地確保の困難性等の諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられる。鑑定評価額を超える賃料であっても、直ちに裁量権の逸脱・濫用として違法または公序良俗違反で無効となるわけではない。
問題の所在(論点)
地方公共団体が締結した不動産賃借契約の賃料額が鑑定評価額を大幅に上回る場合、当該契約の締結および賃料の支出は、長の裁量権を逸脱・濫用したものとして財務会計法規上違法、あるいは私法上無効となるか。
規範
地方公共団体の長による不動産賃借契約の締結および賃料額の決定は、当該不動産を賃借する目的や必要性、契約締結の経緯、内容に影響を及ぼす社会的・経済的要因等の諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられる。したがって、契約上の賃料額が鑑定評価額等を超えていても、上記諸般の事情を考慮した上でなお裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用すると評価される場合でなければ、地方自治法2条14項等に違反して違法となるものではない。また、私法上無効というためには、裁量権の範囲の著しい逸脱・濫用があり、契約を無効としなければ同法等の趣旨を没却する結果となる「特段の事情」が認められることを要する。
重要事実
広域連合が、住民の苦情により閉鎖した旧し尿中継槽に代わる新たな用地を確保するため、A組合所有の土地を月額50万円で賃借する契約を締結した。住民側は、私的な鑑定評価(年額約82万円)に比して賃料が不当に高額であり、適正額を超える支出は違法であるとして、支出の差止めおよび損害賠償を求めて住民訴訟を提起した。原審は、代替施設の利用が可能で緊急性がなく、鑑定も経ずに高額な賃料を合意した点に裁量の逸脱があるとして請求を認容した。
あてはめ
本件では、合併後の旧町域内でのし尿中継槽設置の必要性があり、住民苦情による旧施設廃止という経緯から新たな用地確保は相当困難であった。また、A組合との間で相応の交渉を経て賃料が合意され、議会予算の承認も経ている。私的鑑定はこれら用地確保の緊急性や困難性といった個別事情を考慮したものではない。そうすると、鑑定額との単純な比較のみをもって、直ちに長の判断に裁量権の逸脱・濫用があるとはいえず、公序良俗違反や地方自治法の趣旨を没却する「特段の事情」があるとも認められない。
結論
本件各契約の締結および賃料支出が直ちに違法または無効であるとはいえず、裁量権の逸脱・濫用等の有無についてさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
行政庁の契約締結権限に関する広範な裁量を認めた判例であり、鑑定評価額との乖離という客観的数値だけでなく、行政目的達成のための「必要性」「困難性」といった文脈的価値を考慮すべきことを示している。答案上は、住民訴訟における契約の違法性・無効を論じる際の判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成22(行ヒ)175 / 裁判年月日: 平成23年12月2日 / 結論: 破棄自判
市が賃借人として締結した土地賃貸借契約が,従前は市が所有し,賃貸人の要求に応じて賃貸人に譲渡した土地を対象とするものであり,また,賃借人の側から更新をすることができず,賃料の減額も制限されるなど,賃貸人に有利なものである場合であっても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下においては,当該契約に基づく市長による賃料の支出…
事件番号: 平成26(行ヒ)321 / 裁判年月日: 平成28年6月27日 / 結論: 破棄自判
市が既に取得していた隣接地と一体のものとして事業の用に供するため,土地開発公社の取得した土地をその簿価に基づき正常価格の約1.35倍の価格で買い取る売買契約を締結した市長の判断は,①上記隣接地の取得価格は,近隣土地の分譲価格等を参考にして定められたものであり,相応の合理性を有するものであったこと,②上記売買契約に係る土…