市が賃借人として締結した土地賃貸借契約が,従前は市が所有し,賃貸人の要求に応じて賃貸人に譲渡した土地を対象とするものであり,また,賃借人の側から更新をすることができず,賃料の減額も制限されるなど,賃貸人に有利なものである場合であっても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下においては,当該契約に基づく市長による賃料の支出は,違法ではない。 (1) 上記土地は,市内のため池の一部を埋め立てて工場用地とすること等を内容とする開発事業の区域内にあった賃貸人の所有地の代替地として要求されたものであり,その要求に応じなければ,市に相当程度の税収入の増加と雇用の創出をもたらす上記開発事業を実施することができない状況にあった。 (2) 上記土地は,上記ため池の残部を含み,上記開発事業に係る土地利用計画に残存緑地として組み込まれており,その現状を維持し保全するために当該契約を締結することは,上記開発事業の円滑な継続のために必要であり,上記土地上に存在する特徴ある陸生植物種が植生する湿地環境の保全にも資するものである。 (3) 市が当該契約の締結に際して上記のような内容の約定に応じたのは,賃借人の側からの更新の約定を設けることに応じない賃貸人が自ら契約を更新する動機付けとなるに足りる金額の賃料を支払うことによって事実上その永続的な更新を確保する趣旨によるものであり,その賃料が特に高額であるともいえない。
市が賃借人として締結した土地賃貸借契約がその締結の経緯及び内容に照らして賃貸人に有利なものである場合であっても,当該契約に基づく市長による賃料の支出が違法ではないとされた事例
地方自治法1条の2第1項,地方自治法2条14項,地方自治法242条の2第1項1号,地方自治法242条の2第1項4号,地方財政法4条1項
判旨
地方公共団体が締結した私法上の契約は、その判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり、かつ地方自治法等の趣旨を没却する特段の事情がある場合に限り私法上無効となる。本件では、工場開発の実現や環境保全という公益的観点から、代替地の地主に有利な賃貸借契約を締結した判断に相応の合理性が認められ、無効とはいえない。
問題の所在(論点)
地方公共団体が締結した私法上の契約が、裁量権の逸脱・濫用により私法上無効となり、これに基づく公金支出が財務会計法規上違法となるか(地方自治法242条の2第1項1号・4号)。
規範
地方公共団体が、開発利益の実現や自然環境の保全のためにどの程度の公費を支出するかという判断には、政策的・技術的な見地からの裁量が認められる。したがって、当該契約の締結が諸般の事情を総合勘案した裁量権の行使として合理性を有するか否かを検討すべきである。当該判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり、かつ、これを無効としなければ地方自治法2条14項、地方財政法4条1項等の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、当該契約は私法上無効となり、これに基づく公金の支出は財務会計法規上違法となる。
事件番号: 平成23(行ヒ)452 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 破棄差戻
広域連合がし尿及び浄化槽汚泥の積替え保管施設等の用地として土地を賃借する契約につき,上記用地を確保するため当該土地を賃借する必要性,上記施設の性質に伴う用地確保の緊急性や困難性といった事情について十分に考慮することなく,当該契約において鑑定評価を経ずに定められた賃料額が私的鑑定において適正とされた賃料額と比較して高額で…
重要事実
三重県いなべ市(旧大安町)は、工場誘致(本件開発事業)を計画したが、用地内に点在する土地を所有する入会集団(門前区)が売却に反対した。交渉の結果、市は門前区に対し、①代替地の提供、②代替地(本件土地)を市が緑地帯として借り受け、年1000万円の賃料を支払う契約(本件契約)の締結等を合意した。本件契約は、賃貸人側からのみ解約可能で、賃料減額も制限されるなど地主に有利な内容であった。住民側は、本件契約は実質的に協力金の支払を目的とするものであり、裁量を逸脱し無効であると主張して、賃料の支出差止め等を求めて提訴した。
あてはめ
まず、本件土地の取得なしには多額の税収増(年約5.5億円)や雇用創出(約700人)が見込まれる本件事業が実施不可能であったという事情がある。また、本件土地は県との協定上も残存緑地として維持すべき責務があり、現状保全には一定の公益性が認められる。次に、契約内容が地主に有利である点については、地主に契約更新の動機付けを与えることで事実上の永続的更新を確保する趣旨と解され、次善の策として不合理ではない。賃料も特段高額とはいえず、管理を地主に委ねる点も従前の経緯から不自然ではない。以上から、地主側に著しく不当な要求があった等の事情もなく、市の判断には相応の合理性が認められる。
結論
本件契約の締結に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があるとはいえず、私法上無効ではない。したがって、これに基づく公金の支出命令及び支出に財務会計法規上の違法はない。
実務上の射程
行政が関与する私法上の契約の効力について「著しい逸脱・濫用」と「趣旨没却の特段の事情」という二重の絞りをかけた。住民訴訟において、契約が「公序良俗違反」や「裁量逸脱」で直ちに無効とされることを抑制し、行政の政策的判断を尊重する射程を持つ。
事件番号: 昭和62(行ツ)22 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 破棄自判
保安林内の市有地に市道を建設するに際し、市建設局長らが請負人をして道路建設工事をさせる旨の工事施行決定書に決裁をしてこれに関与した行為は、道路整備計画の円滑な遂行・実現を図るという道路建設行政の見地からする道路行政担当者としての行為(判断)であつて、住民訴訟の対象となる財産管理行為には当たらない。
事件番号: 平成26(行ヒ)321 / 裁判年月日: 平成28年6月27日 / 結論: 破棄自判
市が既に取得していた隣接地と一体のものとして事業の用に供するため,土地開発公社の取得した土地をその簿価に基づき正常価格の約1.35倍の価格で買い取る売買契約を締結した市長の判断は,①上記隣接地の取得価格は,近隣土地の分譲価格等を参考にして定められたものであり,相応の合理性を有するものであったこと,②上記売買契約に係る土…
事件番号: 平成22(行ヒ)42 / 裁判年月日: 平成25年1月25日 / 結論: その他
1 区議会議員が区民として提起した住民訴訟の控訴の提起に係る控訴提起手数料の印紙代及び予納すべき送達費用の切手代の政務調査費からの支出は,目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号による改正前のもの)5条及び別表の定める使途基準の調査研究費又は他の項目に該当せず,…
事件番号: 平成21(行ヒ)401 / 裁判年月日: 平成23年7月14日 / 結論: 破棄自判
介護保険法上の指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者の各指定を府知事から受けた事業者は,不正の手段によってこれらを受けた場合であっても,そのことを理由とする各指定の取消しがされておらず,各指定を受けるに当たっての経緯も各指定を無効とするほどの瑕疵の存在をうかがわせるものではないなど判示の事情の下においては,市…