町の公金九三八万円が秘密裡に用地買収の補償金として支出された場合において、その約四年半後に大見出しに「用地買収費 予算計上せず処理」と掲げ、「用地買収費の九百三十八万円が計上されていない事が明らかになり」などと記載した町の広報誌が全戸配布されたことにより右公金の支出がそのころまでには町の住民にとつて明らかになつたにもかかわらず、この時から四か月余を経過してはじめて右公金の支出について住民監査請求がされたときは、右住民監査請求が右公金の支出のあつた日から一年を経過した後にされたことについて、地方自治法二四二条二項但書にいう正当な理由があるとはいえない。
町の公金の支出のあつた日から一年を経過して住民監査請求がされたことについて地方自治法二四二条二項但書にいう正当な理由があるとはいえないとされた事例
地方自治法242条2項,地方自治法242条の2第1項
判旨
地方自治法242条2項但書の「正当な理由」の有無は、住民が相当の注意力をもって調査した際に客観的に当該行為を知ることができたか、及び知ることができた時から相当期間内に監査請求したかにより判断すべきである。
問題の所在(論点)
地方自治法242条2項但書にいう、監査請求期間経過後の請求を正当化する「正当な理由」の判断枠組みと、本件における広報誌配布後の遅滞の評価が問題となる。
規範
地方自治法242条2項本文が監査請求期間を制限する趣旨は、財務会計上の行為の法的安定性を確保することにある。もっとも、秘密裏の行為等により期間を経過した場合まで一律に請求を認めないのは不当である。したがって、同項但書の「正当な理由」の有無は、①住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたか、②当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたか、によって判断すべきである。
重要事実
町長が予算外収入を原資として予算外支出を行ったが、関係者以外には秘密にされていた。その後、町議会の質問により事実が発覚し、昭和59年10月中旬に全戸配布された広報誌に、用地買収費が予算計上されず不法執行された旨の見出しと記事が掲載された。住民である原告は、昭和60年2月に新聞記事等で詳細を知り、同年3月8日に監査請求を行ったが、支出行為から1年以上が経過していた。
あてはめ
本件支出は秘密裏になされたが、昭和59年10月中旬の広報誌配布により、町の住民にとって、町長が用地買収補償金として公金を違法・不当に支出したことは客観的に明らかになったといえる。原告は、この時点から「相当の注意力をもって調査」すれば本件支出を知り得たはずである。それにもかかわらず、知ることができた時から約4か月を経過した昭和60年3月に至ってなされた監査請求は、相当な期間内になされたものとはいえない。なお、百条委員会の調査を待っていたとしても、それは監査請求の提起とは無関係であり、期間を宥恕する理由にはならない。
結論
本件監査請求に「正当な理由」は認められず、適法な監査請求を経ていないため、本件住民訴訟は却下されるべきである。
実務上の射程
住民訴訟の適法要件たる監査請求期間(1年)の宥恕について、主観的認識ではなく「客観的な知得可能性」を基準とすることを明示した。広報誌での公表は客観的な知得可能性を認める有力な事実となる一方で、議会等の内部調査の終了を待つことは相当期間のカウントを止める事情にはならない点に注意が必要である。
事件番号: 平成10(行ツ)69 / 裁判年月日: 平成14年9月12日 / 結論: 破棄差戻
普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記…
事件番号: 平成10(行ヒ)51 / 裁判年月日: 平成14年7月2日 / 結論: 破棄自判
1 実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象としてされた住民監査請求において,監査委員が当該怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,当該監査請求に地方自治法2…
事件番号: 平成17(行ヒ)341 / 裁判年月日: 平成19年4月24日 / 結論: 棄却
1 財産の管理を怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合には,当該怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする住民監査請求をすることができない。 2 財産の管理を怠る事実(第1の怠る事実)に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事…