銀行と顧客企業との間で,変動金利が上昇した際のリスクヘッジのため,同一通貨間で,一定の想定元本,取引期間等を設定し,固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引が行われた場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記取引に係る契約締結の際,銀行が,顧客に対し,中途解約時の清算金の具体的な算定方法等について十分な説明をしなかったとしても,銀行に説明義務違反があったということはできない。 (1) 上記取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右される基本的な構造ないし原理自体が単純な仕組みのものであって,企業経営者であれば,その理解が一般に困難なものではない。 (2) 銀行は,顧客に対し,上記取引の基本的な仕組み等を説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明した。 (3) 上記契約の締結に先立ち銀行が説明のために顧客に交付した書面には,上記契約が銀行の承諾なしに中途解約をすることができないものであることに加え,銀行の承諾を得て中途解約をする場合には顧客が清算金の支払義務を負う可能性があることが明示されていた。
銀行と顧客との間で固定金利と変動金利を交換してその差額を決済するという金利スワップ取引に係る契約を締結した際に銀行に説明義務違反があったとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
銀行が企業との間でプレーン・バニラ・金利スワップ取引を行う際、取引の基本構造や金利変動リスクを説明していれば、清算金の具体的算定方法等の詳細な事項を説明しなくても説明義務違反にはならない。本件各契約の仕組みは単純であり、中途解約時の清算義務が明示されていた以上、不法行為上の義務違反は認められない。
問題の所在(論点)
プレーン・バニラ型金利スワップ取引において、銀行は顧客に対し、①中途解約時の清算金具体的算定方法、②スポット型等との利害得失、③固定金利水準の妥当性について説明すべき不法行為上の説明義務を負うか。
規範
金融機関が顧客とデリバティブ取引を締結する際の説明義務の範囲は、取引の仕組み、リスクの性質、顧客の属性等を総合して決される。取引の基本構造が単純で企業経営者にとって理解が困難でない場合、基本的な仕組みや損益発生の原理を説明していれば、原則として説明義務を尽くしたといえる。清算金の具体的算定方法や他型との利害得失、固定金利水準の妥当性は、顧客自らが判断すべき性質のものであり、特別の事情がない限り説明義務の対象にはならない。
重要事実
足場工事業を営むX(被上告人)は、銀行Y(上告人)から、借入金の金利上昇リスクヘッジを目的として「プレーン・バニラ・金利スワップ」の提案を受けた。Yの従業員は、提案書を用いて取引の仕組み、金利上昇時のメリット、金利低下時のデメリット、中途解約は原則不可で解約時には清算金の支払可能性があることを説明した。Xはこれを承諾し、本件各契約を締結したが、その後の金利推移により多額の支払が生じたため、Yに対し、清算金の具体的算定方法等の説明がなかったとして説明義務違反に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
本件取引は、将来の金利予測により有利不利が決まる単純な構造であり、企業経営者にとって理解が困難なものではない。Yは、基本的な仕組みや、変動金利が一定利率を下回る場合に支払が多額になるリスクを説明しており、基本事項については義務を尽くしている。①清算金については、提案書で支払義務が生じる可能性を明示しており、具体的算定方法まで説明する義務はない。②先スタート型の承諾を得ている以上、他型との比較説明も不要である。③金利水準の妥当性は顧客自身が判断すべき事柄である。したがって、Yに説明義務違反としての不法行為は成立しない。
結論
上告人(銀行)に説明義務違反は認められず、本訴請求(損害賠償)は棄却される。逆に、上告人の反訴請求(契約に基づく未払金支払)は全額認容される。
実務上の射程
適合性の原則に反しない程度の理解力を有する企業との、単純なデリバティブ取引(プレーン・バニラ)に関する判例である。複雑な派生商品や個人顧客の場合には依然として高度な説明義務が課される可能性があるが、企業間取引における自己責任原則を重視する射程を持つ。
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