本位的訴因とされた賭博開張図利の共同正犯は認定できないが,予備的訴因とされた賭博開張図利の幇助犯は認定できるとした第1審判決に対し,検察官が控訴の申立てをしなかった場合に,控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をすることは,職権の発動として許される限度を超えるものであり,違法である。
本位的訴因を否定し予備的訴因を認定した第1審判決に対し検察官が控訴の申立てをしなかった場合に,控訴審が職権調査により本位的訴因について有罪の自判をすることが違法であるとされた事例
刑訴法392条2項
判旨
本位的訴因を排斥し予備的訴因を認めた第一審判決に対し、被告人のみが控訴し検察官が控訴しなかった場合、本位的訴因は既に当事者間の攻防の対象から外れている。したがって、控訴審が職権により本位的訴因を有罪と自判することは、職権発動の限度を超え違法である。
問題の所在(論点)
検察官が控訴せず被告人のみが控訴したケースにおいて、控訴審が第一審で排斥された本位的訴因を職権で調査し、これに基づき有罪の自判をすることの可否。
規範
検察官が第一審判決に対し控訴を申し立てなかった場合、検察官は排斥された本位的訴因についての訴訟追行を断念したものとみるべきである。この場合、本位的訴因は既に当事者間の攻防の対象から外れているため、控訴審は本位的訴因を排斥した第一審の判断を前提とすべきであり、職権で本位的訴因を調査し有罪の自判をすることは職権発動の許容限度を超え違法となる。
重要事実
被告人は賭博開張図利の共同正犯(本位的訴因)および幇助(予備的訴因)で起訴された。第一審は、正犯意思や共謀を否定して本位的訴因を排斥し、予備的訴因である幇助犯の成立を認め執行猶予付判決を言い渡した。被告人のみが控訴し、検察官は控訴しなかったが、原審(控訴審)は職権で事実誤認を認め、第一審を破棄した上で本位的訴因(共同正犯)を有罪として第一審と同じ刑を言い渡した。
あてはめ
本件では、検察官が第一審判決に対して控訴を申し立てていない以上、本位的訴因である共同正犯については訴訟追行を断念したものといえる。控訴審段階では、本位的訴因は当事者間の攻防の対象外となっている。それにもかかわらず、原審が第一審の判断を前提とせず、職権により本位的訴因を認定して有罪とすることは、刑事訴訟法上の控訴審の職権調査の限界を逸脱した法令違反があるといえる。
結論
控訴審が本位的訴因について職権で有罪の自判をしたことは違法である。ただし、第一審の幇助犯の認定に誤りはなく、量刑も同一であるため、破棄しないことが著しく正義に反するとまではいえず、上告を棄却する。
実務上の射程
検察官が控訴していない訴因への職権変更の限界を示す射程の長い判例である。答案上は、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の議論と並び、控訴審の事後審的性格や「攻防の対象」という観点から、検察官が争っていない訴因を裁判所が独断で復活させることの是非を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和41(あ)2110 / 裁判年月日: 昭和42年3月24日 / 結論: その他
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【結論(判旨の要点)】本決定は、刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない事案について、記録を精査しても同法411条を適用して職権で判決を破棄すべき事由も認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てたが、弁護人が主張した上告趣意の内容が、刑事訴訟法405条に規定されている上告理…