判旨
被告人のみが上告した事件において、原判決が累犯加重を失念して不当に軽い刑を科した法令適用の誤りがあっても、不利益変更禁止の原則に照らし、直ちに破棄自判すべきものとは認められない。
問題の所在(論点)
被告人のみが上告した事件において、原判決が累犯加重をすべきであるのにこれをしなかった法令適用の誤りがある場合、刑訴法411条に基づき、最高裁判所が職権で被告人に不利益な方向に原判決を破棄できるか。
規範
被告人のみが上告を申し立てた場合において、原判決に法令適用の誤り(本件では累犯加重の不適用)があったとしても、刑訴法411条を適用して職権で原判決を破棄し、被告人に不利益な変更を行うべき事由があるか否かは、不利益変更禁止の趣旨を考慮して慎重に判断されるべきである。
重要事実
被告人には昭和39年11月に懲役刑の執行を終えた前科があった。その後、昭和40年2月および3月に本件罪を犯しており、本来であれば刑法56条1項により累犯加重がなされるべき事案であった。しかし、原判決は前科の存在を認めながらも自判において累犯加重を失念した。本件は被告人のみから上告がなされたものである。
あてはめ
原判決には累犯加重を適用しなかったという明らかな法令適用の誤りが存在する。しかし、本件は被告人のみが上告した事件であり、もし法令適用の誤りを正して累犯加重を適用すれば、被告人にとってより重い刑が科されることになり、実質的に不利益変更禁止の原則の趣旨を没却することになる。したがって、本件の違法は、職権をもって破棄すべきもの(刑訴法411条)とは認められないと解される。
結論
被告人の上告を棄却する。原判決に累犯加重を怠った法令違背はあるが、被告人のみの上告である以上、職権破棄は行わない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条参照)が上告審において職権破棄(刑訴法411条)を行う際の判断基準としてどのように作用するかを示す。検察官が上告していない以上、被告人のみに不利な法令違背の是正は制限されるという実務上の限界を明確にしている。
事件番号: 昭和41(あ)2110 / 裁判年月日: 昭和42年3月24日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人が一部の罪についてのみ控訴し、検察官が控訴しなかった場合、控訴されなかった罪の部分は確定し、控訴審の審判対象から外れるため、これについて審判を行うことは違法である。 第1 事案の概要:被告人は、第一審判決において2件の恐喝罪と1件の賭博罪について有罪と認められ、恐喝罪につき懲役刑、賭博罪につ…
事件番号: 昭和23(れ)1008 / 裁判年月日: 昭和23年11月18日 / 結論: 棄却
刑訴法第四〇三條に「原判決の刑より重き刑を言渡すことを得ず」と規定した趣旨は、判決主文の刑すなわち判決の結果を原判決の結果に比し被告人の不利益に變更することを禁ずるにある。それ故、判決主文において全體として被告人に不利益な結果を生ずべき言渡をしない限り、單に原判決と異り被告人の不利益となるべき犯罪事實の認定をしても同條…
事件番号: 昭和48(あ)1528 / 裁判年月日: 昭和48年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人にのみ不利な法令適用の誤りがある場合であっても、被告人が上告した事件においては、不利益変更禁止の原則等の趣旨に鑑み、職権による破棄自判をすべきものとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が量刑不当を理由として上告した事案。第一審判決は、被告人に累犯加重の原因となる前科があることを認めなが…