累犯加重に関する規定の適用を遺脱した違法と刑訴法四一一条(ただし、被告人上告の場合)
刑訴法411条
判旨
被告人にのみ不利な法令適用の誤りがある場合であっても、被告人が上告した事件においては、不利益変更禁止の原則等の趣旨に鑑み、職権による破棄自判をすべきものとは認められない。
問題の所在(論点)
被告人のみが上告した事件において、第一審・原審が累犯加重を失念するという「被告人に有利な法令適用の誤り」を犯していた場合、最高裁判所は刑訴法411条に基づき職権で原判決を破棄すべきか。
規範
被告人が上告した事件において、原判決に法令適用の誤り(累犯加重の不適用等)がある場合であっても、それが被告人に有利な誤りであり、かつ被告人の不利益に破棄すべき特段の事情がない限り、刑訴法411条を適用して職権で原判決を破棄することは要しない。
重要事実
被告人が量刑不当を理由として上告した事案。第一審判決は、被告人に累犯加重の原因となる前科があることを認めながら、刑法56条1項、57条による累犯加重を適用せず、原判決もこの点を見過ごして維持していた。
あてはめ
本件では第一審および原審において累犯加重を適用しなかった違法が認められる。しかし、本件上告は被告人の申立てによるものであり、もし職権で破棄すれば被告人にとってより重い刑が科される結果となる。不利益変更禁止の趣旨や上告制度の性質に照らせば、このような被告人に有利な違法は、刑訴法411条の「著しく正義に反すると認めるとき」等には該当せず、職権破棄の対象とはならないと解される。
結論
被告人の上告を棄却する。法令適用の誤りは存するが、被告人の申立てにかかる本件においては、職権による破棄は行わない。
実務上の射程
刑事訴訟法における不利益変更禁止の原則(402条)の精神を上告審の職権破棄の場面(411条)でも及ぼしたものと理解される。答案上は、法令適用の誤りがある場合でも、それが被告人にのみ有利な内容であれば、被告人側の上告において職権破棄はなされないという帰結を示す際に参照する。
事件番号: 昭和50(あ)269 / 裁判年月日: 昭和50年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】営利の目的がある事実を認定しながら、営利目的の罰則規定の適用を遺脱した判決であっても、その違法が著しく正義に反すると認められない限り、職権による破棄を要しない。 第1 事案の概要:第一審判決は、被告人による覚せい剤譲渡の事実につき、営利の目的があることを認定・判示していた。しかし、法律適用の段階に…
事件番号: 昭和46(あ)765 / 裁判年月日: 昭和46年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に累犯加重が適用されるべき事実があるにもかかわらず、原判決がこれを適用しなかった違法がある場合でも、被告人の不利益に判決を変更することは許されないため、原判決を破棄しなくても著しく正義に反するとは認められない。 第1 事案の概要:被告人は、過去に賍物故買および恐喝未遂罪により懲役1年6月およ…
事件番号: 昭和34(あ)1075 / 裁判年月日: 昭和37年6月15日 / 結論: 棄却
差戻前の第一審判決に対し、被告人のほか検察官から量刑不当を理由とする控訴の申立があつた以上、控訴審が右各申立に対する判断をしないで職権により第一審判決を破棄、差し戻した場合において、差戻後の第一審判決が被告人を差戻前の第一審判決より重い刑に処しても、不利益変更禁止の原則に違反しない。