差戻前の第一審判決に対し、被告人のほか検察官から量刑不当を理由とする控訴の申立があつた以上、控訴審が右各申立に対する判断をしないで職権により第一審判決を破棄、差し戻した場合において、差戻後の第一審判決が被告人を差戻前の第一審判決より重い刑に処しても、不利益変更禁止の原則に違反しない。
被告人のほか検察官から量刑不当を理由とする控訴の申立があつた場合において控訴審が職権で第一審判決を破棄差し戻したときと不利益変更禁止の原則。
刑訴法400条,刑訴法402条
判旨
検察官による量刑不当の控訴申立てがある場合、控訴審が検察官の申立てに対する判断を示さずに職権で第一審判決を破棄差戻し、その後の第一審において当初の第一審判決より重い刑を言い渡しても、刑訴法402条の不利益変更禁止の原則には違反しない。
問題の所在(論点)
検察官からも量刑不当を理由に控訴がなされている状況下で、控訴審がその申立てに対する判断をせずに職権で第一審判決を破棄差戻し、差戻後の判決で当初より重い刑を科すことが、刑訴法402条(不利益変更禁止の原則)に抵触するか。
規範
刑事訴訟法402条が定める不利益変更禁止の原則は、被告人が控訴した事件(被告人のためにも控訴がなされた事件)において、被告人の控訴権行使を保障する趣旨である。したがって、検察官からも被告人に不利益な変更を求める控訴(量刑不当等)が有効になされている場合には、控訴審が職権により破棄差戻しをした場合であっても、同条の適用はないものと解される。
重要事実
被告人AおよびBに対し、第一次第一審判決は懲役1年(および罰金)を言い渡した。これに対し、被告人両名および検察官の両者が量刑不当を理由として控訴を申し立てた。第一次控訴審は、検察官の控訴申立てに対する判断を示さず、職権により第一審判決を破棄して差し戻した。差戻後の第二次第一審判決において、裁判所は被告人両名に対し、第一次第一審判決よりも重い懲役1年6月(および罰金)を言い渡した。
あてはめ
本件では、第一次第一審判決に対し、被告人側のみならず検察官からも量刑不当を理由とした控訴申立てがなされていた。不利益変更禁止の原則は、検察官が控訴せず被告人のみが控訴した際に不利益な変更を禁じることで控訴権行使の萎縮を防ぐものであるが、検察官が正当に控訴を申し立てている以上、被告人は既に刑が加重されるリスクを負担している。控訴審が検察官の申立てを理由とせず職権で破棄差戻しを行った場合であっても、検察官の控訴申立てが存在する事実に変わりはない。したがって、差戻後の判決が当初の判決より重い刑を言い渡したとしても、被告人側の控訴のみを根拠とする不利益な変更には当たらない。
結論
検察官の控訴がある以上、刑訴法402条の適用はなく、差戻後に当初より重い刑を言い渡しても不利益変更禁止の原則に違反しない。
実務上の射程
司法試験においては、不利益変更禁止の原則の適用範囲が問題となる場面(例えば一部上訴、移送、差戻し後の処理)で活用する。検察官による控訴の有無が判断の分水嶺となることを示す重要な判例であり、特に「職権破棄」という手続的経緯を経ても検察官控訴の効果が維持される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和38(あ)1523 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官および被告人の双方が控訴し、控訴審が検察官の控訴趣意(量刑不当)への判断を示さずに原判決を破棄差戻した後に、差戻後の裁判所が差戻前より重い刑を科すことは、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人両名が事実誤認を理由に控訴し、同時に検察官も量刑不当を理由と…
事件番号: 昭和23(れ)1085 / 裁判年月日: 昭和23年12月9日 / 結論: 棄却
刑の執行猶豫を言渡すか否かその他刑の量定をいかにするかの理由は刑訴法第三六〇條にいわゆる罪となるべき事實に該當しないから、原審が第一審の刑期と異る懲役刑を科し、その執行を猶豫する言渡をしなかつた理由を特に判示しなかつたからと云つて、原判決には毛頭違法はない。
事件番号: 昭和43(あ)1521 / 裁判年月日: 昭和44年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決言渡日に施行された改正刑法を適用せず、旧法を適用して併合罪の処理を行ったことは法令の適用誤りにあたるが、原判決を破棄しなくても著しく正義に反するとまではいえない場合には、刑訴法411条による職権破棄を要しない。 第1 事案の概要:被告人は複数の罪に問われ、原判決が言い渡された当日、併合罪の規定…