判旨
被告人のみが上告した場合において、原判決に法令の適用の誤りがあり、正当な処断刑の範囲が原判決のそれよりも重くなるとしても、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の趣旨に鑑み、職権により原判決を破棄すべきものとは認められない。
問題の所在(論点)
被告人のみが上告した場合において、原判決に法令適用の誤りがあり、正当な処断刑の範囲が原判決よりも重くなる(被告人に有利な誤りがある)とき、刑訴法411条に基づき職権で原判決を破棄すべきか。
規範
被告人のみが上告をした事件においては、原判決の法令適用に誤りがあり、本来適用すべき法条によれば原判決よりも重い処断刑の範囲が導き出される場合であっても、不利益変更禁止の原則の趣旨が及ぶ。したがって、特段の事情がない限り、刑訴法411条を適用して原判決を職権で破棄することは許されない。
重要事実
被告人が覚せい剤取締法違反等で起訴された事案。第一審判決が認定した事実(覚せい剤の使用)に対し、原判決は誤って「覚せい剤原料の使用」に関する罰則規定を適用した。さらに、併合罪加重においても刑法47条但書の適用を誤った。本来適用すべき覚せい剤使用の罪の処断刑の範囲は、原判決が誤って適用した処断刑よりも重いものであったが、本件は被告人のみが上告した事案であった。
あてはめ
原判決は、覚せい剤使用の事実に対し、覚せい剤取締法19条・41条1項5号を適用すべきところ、同法30条の10・41条の4第1項9号を適用し、併合罪加重の手続きも誤っている。このため、正しい法令を適用した場合の処断刑の範囲は原判決よりも重くなる。しかし、本件は被告人のみが上告した事件である。不利益変更禁止の原則(刑訴法402条参照)が妥当する場面において、被告人に不利な結果を招く形での職権破棄は、同原則の趣旨および刑訴法411条の裁量的性格に照らして相当ではない。
結論
原判決の法令適用には誤りがあるが、被告人のみが上告した本件においては、刑訴法411条を適用して原判決を破棄すべきものとは認められないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和48(あ)1528 / 裁判年月日: 昭和48年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人にのみ不利な法令適用の誤りがある場合であっても、被告人が上告した事件においては、不利益変更禁止の原則等の趣旨に鑑み、職権による破棄自判をすべきものとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が量刑不当を理由として上告した事案。第一審判決は、被告人に累犯加重の原因となる前科があることを認めなが…
実務上の射程
上訴審において被告人に有利な法令適用の誤り(刑が軽すぎる誤り)が判明しても、被告人のみの上訴である限り、不利益変更禁止の原則により、裁判所が職権で被告人に不利に変更することはできないことを示したもの。答案上は、不利益変更禁止の原則の射程として論じる際に有用。
事件番号: 昭和34(あ)1075 / 裁判年月日: 昭和37年6月15日 / 結論: 棄却
差戻前の第一審判決に対し、被告人のほか検察官から量刑不当を理由とする控訴の申立があつた以上、控訴審が右各申立に対する判断をしないで職権により第一審判決を破棄、差し戻した場合において、差戻後の第一審判決が被告人を差戻前の第一審判決より重い刑に処しても、不利益変更禁止の原則に違反しない。