刑の執行と重複する未決勾留日数の算入があつても、被告人のみからの上告の場合には破棄事由にあたらないとされた事例
刑訴法414条,刑訴法402条
判旨
被告人のみが上告した事件において、原判決が未決勾留日数の算入に誤りがあり被告人に有利な内容となっていたとしても、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)が及ぶため、上告裁判所が原判決を被告人に不利益に破棄・変更することは許されない。
問題の所在(論点)
被告人のみが上告した事件において、原判決に未決勾留日数の不当な算入(被告人に有利な誤り)がある場合、上告裁判所は不利益変更禁止の原則(刑訴法402条、414条)に抵触することなく、当該誤りを理由に原判決を破棄できるか。
規範
刑訴法402条の定める不利益変更禁止の原則は、被告人が上告した事件において、上告裁判所が原判決の刑よりも重い刑を言い渡すことを禁じるものである。この原則は、原判決の法令適用に誤りがあり、その結果として被告人に不当に有利な刑が科されている場合であっても適用される。したがって、刑の算定の基礎となる未決勾留日数の算入に誤りがある場合であっても、それを是正することで被告人に不利益な結果を招くときは、当該誤りを理由とした破棄は許されない。
重要事実
被告人が単独で上告した事件において、原判決を確認したところ、別件の確定判決による懲役刑の執行期間と重複する未決勾留日数を、本件の刑期に算入しているという計算上の誤りがあった。この誤りを正すと、実質的に被告人が服する刑期が長くなる(被告人に不利益となる)状態であった。
あてはめ
本件では、原判決に未決勾留日数の算入に関する誤りが認められる。しかし、本件上告は被告人の側からのみなされたものである。算入の誤りを是正して未決勾留日数を減らすことは、被告人にとって刑の執行実効期間を延ばすことになり、原判決の刑を不利益に変更することに他ならない。刑訴法402条および同法414条の規定に照らせば、被告人の権利を保護し上告権の行使を保障する趣旨から、このような不利益な変更は許容されない。したがって、原判決の誤りは破棄事由には当たらないと評価される。
事件番号: 昭和25(れ)1461 / 裁判年月日: 昭和25年12月22日 / 結論: 破棄自判
原判決の刑と第一審判決のそれとをくらべてみると両者は未決勾留日数を本刑に通算する点を除いてその他の部分はすべて同じであるが、前者は後者において本刑に通算せられた第一審の未決勾留日数中、六〇日をその本刑に算入していないこと論旨の指摘するとおりである。しからば原判決の刑は第一審判決の刑より重いこと明らかである。しかるに本件…
結論
被告人のみが上告した本件において、原判決に被告人に有利な計算誤りがあっても、不利益変更禁止の原則が適用されるため、当該誤りを理由に原判決を破棄することはできない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則が、単純な「刑期」の多寡だけでなく、未決勾留日数の算入といった刑の執行に影響を与える付随的判断の誤りについても及ぶことを示す。答案作成上は、検察官が控訴・上告していない場面で原判決の瑕疵を見つけた際、その是正が被告人に不利益をもたらす場合には、本法理を根拠に「破棄できない」旨を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和42(あ)672 / 裁判年月日: 昭和42年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人のみが上告した場合において、原判決に法令の適用の誤りがあり、正当な処断刑の範囲が原判決のそれよりも重くなるとしても、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の趣旨に鑑み、職権により原判決を破棄すべきものとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が覚せい剤取締法違反等で起訴された事案。第一審判…