旧刑訴四〇三条にいわゆる「原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス」というのは、第一審判決の主文における刑よりも重い刑の言渡をなすことを禁ずる趣旨であつて、本件において、被告人の所論騙取材木の数量につき原判決の認定したところが第一審判決の認定したところよりも減少していたからといつて、その科刑が同一である以上、右刑訴の法条に違反し、第一審判決を不利益に変更したものとはいえないから、原判決には所論のような違法は存しない。
旧刑訴法第四〇三条にいう「原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス」の趣旨。
旧刑訴法403条,刑訴法402条
判旨
不利益変更禁止の原則における「重い刑」の判断は、判決主文で言い渡された刑の種類および量を基準に判断すべきであり、認定事実の一部が減少しても宣告刑が同一であれば同原則に違反しない。また、前科に係る犯罪と本件犯罪が、犯行時期の隔たりや犯罪態様の差異に鑑みて同一の意思に基づくものと認められない場合は、連続一罪とはならない。
問題の所在(論点)
1. 第一審が認定した犯罪事実(数量)を減少させつつ、第一審と同一の刑を言い渡すことは、不利益変更禁止の原則(刑事訴訟法402条)に抵触するか。2. 約2年5か月の期間を置いてなされた前科に係る犯罪と本件詐欺罪が、連続一罪の関係にあるといえるか。
規範
旧刑事訴訟法403条(現行刑事訴訟法402条)にいう「被告人が控訴をした事件について、原判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」とは、第一審判決の主文における刑よりも重い刑の言渡をなすことを禁ずる趣旨である。また、数個の犯罪が包括一罪(連続一罪)となるかは、犯行時期の近接性、犯罪態様の共通性、およびそれらを通底する犯意の単一性・連続性の有無によって判断される。
重要事実
被告人は昭和22年6月下旬頃に本件詐欺罪を犯した。その後、昭和24年12月から昭和25年1月にかけて別件の詐欺、詐欺未遂、傷害等の犯行に及び、昭和25年6月に懲役2年6月の刑が確定した。本件の第一審判決に対し、控訴審(原判決)は、被告人が騙取した材木の数量について第一審の認定よりも減少させたが、科刑については第一審と同一の刑を維持した。
あてはめ
1. 不利益変更の有無については、判決の主文で示される宣告刑を基準に比較すべきである。本件では、認定された材木の数量が減少しているものの、宣告された刑が第一審と同一である以上、刑を不利益に変更したものとはいえない。2. 本件詐欺と前科に係る犯罪との間には、約2年5か月以上の時期的経過があり、かつ犯罪態様にも差異が認められる。このような時間的・内容的な隔たりに鑑みれば、被告人が当初から同一の意思の発動により両者を連続して行ったとは認められないため、連続一罪の関係は否定される。
結論
1. 認定事実が減少しても宣告刑が同一であれば不利益変更禁止の原則に反しない。2. 時期的隔たりと態様の差異から同一意思が否定されるため、本件と前科は連続一罪(包括一罪)とはならず、原判決の判断は相当である。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則が「主文の刑」を基準とすることを明示した判例であり、理由中の認定事実が被告人に有利に変更されても、主文の刑が変わらなければ違法とならないことを示す。また、罪数論における包括一罪の判断において、2年以上の時間的空白が「犯意の単一性」を否定する重要な考慮要素になることを示唆している。
事件番号: 昭和23(れ)838 / 裁判年月日: 昭和23年12月4日 / 結論: 棄却
一 裁判所はその基本たる事實關係の同一性を害せざる限りは、公訴事實として摘示せられた事實と、その態樣において異り、從つて適用法條を異にする事實を認定することができるのである。 二 控訴審は第一審の覆審であるから、控訴事實の同一性を害せざる限りは、第一審判決の認定した事實と差違のある事實を認定しても、すこしも差支えないの…