原判決が右司法警察吏の捜査報告書の記載を証拠としたのは、専ら被害者Aの死亡した日時及び場所が判示のとおりである事実のみを認定するためであつて、その他の判示事実には関連のないものであることは原判決自体に徴し明らかである。そして、傷害致死の罪において殺害者の死亡した日時場所は罪となるべき事実ではなく、従つて適法に証拠調を経た証拠によつてこれを認定しなければならないものではないのであるから、所論捜査報告書については証拠調の手続がなされていないからといつて原判決破棄の理由とならない。
数個の証拠を綜合して事実を認定した場合そのうちの一証拠が証拠調を経ていなくても判決破棄の理由とならない事例
旧刑訴法336条,旧刑訴法360条1項,旧刑訴法410条19項
判旨
控訴審における不利益変更禁止の原則における「重い刑」とは、原判決の主文における科刑を基準に判断すべきであり、同一の刑を言い渡すことはこれに違反しない。また、執行猶予の付与は事実審の裁量に委ねられており、有利な情状があっても直ちに義務付けられるものではない。
問題の所在(論点)
1. 第一審判決後に有利な情状が生じた場合、控訴審において第一審と同一の刑を言い渡すことは不利益変更禁止の原則に抵触するか。2. 有利な情状がある場合に執行猶予を付与しないことが違法となるか。
規範
1. 不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条、現刑訴法402条参照)にいう「原判決の刑より重い刑」とは、原判決の主文における科刑に比して重い科刑を科すことを意味する。2. 控訴審は判決言渡に至るまでの諸般の事情を斟酌して量刑を行うことができ、刑の執行猶予を言い渡すか否かは事実審の裁量に委ねられる。
重要事実
被告人が第一審判決に対し控訴した事案において、第一審判決後に被告人に有利な情状が生じたと主張された。しかし、控訴審(原審)は第一審と同一の刑を言い渡し、かつ執行猶予を付与しなかった。被告人側は、有利な情状があるにもかかわらず第一審と同一の刑を維持したこと、および執行猶予を付与しなかったことは違法であるとして上告した。
あてはめ
1. 控訴審は覆審的性格を有し、判決時までの諸般の事情を斟酌して適当な量刑を行う権限がある。不利益変更の有無は、純粋に「主文の科刑」を比較して決すべきであり、第一審より軽い刑を言い渡さなければならない法的義務はない。本件で控訴審が第一審と同一の刑を言い渡したことは、科刑が重くなったとはいえない。2. 執行猶予は事実審の広範な裁量事項であり、被告人が主張する有利な事情を考慮したとしても、なお執行猶予を付さない判断は裁量権の範囲内である。
結論
控訴審が第一審と同一の刑を言い渡し、執行猶予を付与しなかった判断は適法である。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則における「刑の重さ」の比較基準が、主文の形式的な科刑(刑種・刑期・金額)にあることを明確にしたもの。現行刑訴法下においても、控訴審の事後審的性格を前提としつつ、量刑不当の判断や不利益変更禁止の基準を検討する際の基礎的な考え方として機能する。
事件番号: 昭和23(れ)748 / 裁判年月日: 昭和23年11月16日 / 結論: 棄却
一 被告人が控訴をした事件について第一審判決後被告人から被害者に被害の辨償ができた等被告人に有利の情況が生じた場合であつても控訴裁判所は必ずしも第一審判決の刑より輕に刑を言渡さなければならないものではなく、犯情その他諸般の事情にょつて第一審判決と同一の刑を言渡すことができるものである。そして、刑事訴訟法第四〇三條に所謂…