一 被告人が控訴をした事件について第一審判決後被告人から被害者に被害の辨償ができた等被告人に有利の情況が生じた場合であつても控訴裁判所は必ずしも第一審判決の刑より輕に刑を言渡さなければならないものではなく、犯情その他諸般の事情にょつて第一審判決と同一の刑を言渡すことができるものである。そして、刑事訴訟法第四〇三條に所謂「原判決の刑より重い刑を言渡す」というのは判決主文における科刑を原判決にくらべて重くする意味であるから第二審において第一審と同一の刑を言渡すことは(刑と辨償とを加えると原判決の刑より重いからという理由により)同條に違反するものではない。 二 同日の公判調書によれば公開を禁じた旨及びその理由の記載がないのであるから同日の公判は公開法廷で行われたこと明らかである。けだし、公判調書には公判が公開されたことを特に記載する必要はなく、公開を禁じた場合に、その旨及び理由を記載すれば足りるのであつてこのことは當裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二一九號事件、昭和二三年六月一四日大法廷判決)として示すところである。
一 第一審判決後被告人が被告辨償をした場合の控訴審の判決と不利益變更禁止 二 公判調書に公判の公開されたことを記載することの要否
刑訴法403條,刑訴法60條4號,憲法82條
判旨
控訴審において、第一審判決後に被害弁償等被告人に有利な事情が生じた場合であっても、裁判所は必ずしも減刑する必要はなく、第一審と同一の刑を言い渡すことが可能である。また、不利益変更禁止の原則における「重い刑」とは、判決主文における科刑を第一審よりも重くすることを指す。
問題の所在(論点)
第一審判決後に被害弁償等の有利な情状が生じた場合、控訴審は必ず減刑しなければならないのか。また、第一審と同一の刑を言い渡すことは不利益変更禁止の原則に抵触するか。
規範
刑事訴訟法402条(旧403条)が定める不利益変更禁止の原則にいう「原判決の刑より重い刑を言い渡す」とは、判決主文における科刑を原判決と比較して重くすることを意味する。したがって、第一審と同一の刑を言い渡すことは同条に違反しない。また、第一審判決後に被告人に有利な事情が生じた場合であっても、控訴裁判所は犯情その他諸般の事情を総合考慮し、その裁量により第一審と同一の刑を維持することができる。
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…
重要事実
被告人A、B、Cの三名は、第一審判決を受けた後に控訴を提起した。第一審判決の後、被告人側から被害者に対して被害弁償がなされるなど、被告人にとって有利な情状の変化が生じていた。しかし、控訴審(原審)は、これらの事情を考慮した上でもなお、第一審判決の刑を維持し、同一の刑を言い渡した。これに対し、被告人側は有利な事情がある以上は減刑すべきであり、同一の刑を維持することは不利益変更禁止の原則等に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人側に被害弁償という有利な事情が生じたことは事実であるが、刑の量定は犯情やその他の諸般の事情を総合して判断されるべき事柄である。刑事訴訟法上の不利益変更禁止の原則は、被告人が不利益を恐れずに上訴権を行使できることを趣旨とするが、その禁止の対象は「原判決より重い刑」の言渡しである。本件のように、第一審と同一の刑を言い渡すことは、刑を重くしたものとはいえず、同原則の文言および趣旨に反しない。有利な情状があるからといって、直ちに機械的な減刑を強いるものではないと解される。
結論
控訴審において第一審と同一の刑を言い渡すことは、第一審判決後に有利な情状が生じていたとしても適法であり、不利益変更禁止の原則に違反しない。
実務上の射程
不利益変更禁止の対象が「主文の刑」であることを明確にした基本判例である。答案上は、控訴審の量定において、被告人に有利な新証拠や事情が提出された場合でも、なお第一審の刑を維持することが裁量の範囲内であることを示す際に活用できる。
事件番号: 昭和33(あ)741 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。