論旨は、原判決が被告人を懲役一年六月に處したのは、第一審判決の刑より重い刑を言渡したものであつて、舊刑訴法四〇三條に反するというのである。しかし被告人は、本件第一審において懲役一年以上三年以下の不定期刑の言渡を受けその判決に對して控訴し、また別件第一審において懲役一年の刑に處せられその判決に對して控訴し、原裁判所は右二個の控訴事件について併合審理したのであつて、右第一判決の不定期刑の最低限なる懲役一年を取つてもこれを第二判決の懲役一年と加えて第二審においては少くとも懲役二年までは言渡し得るのであるから、原審が被告人に對して懲役一年六月を言渡したのは不利益變更の禁止の原則に觸れるものでなく、論旨は理由がない。
第一審で懲役一年以上三年以下及び懲役一年の言渡を各別に受け、第二審において併合審理のうえ懲役一年六月に處した場合と不利益變更の禁止
舊刑訴法403條
判旨
複数の控訴事件が併合審理される場合、判決で言い渡される刑期が各第一審判決の刑期の合計を超えない限り、不利益変更禁止の原則には抵触しない。
問題の所在(論点)
複数の控訴事件を併合審理して一個の判決を下す際、不利益変更禁止の原則との関係で、刑の重軽を判断するための基準をいかに解すべきか。
規範
被告人が控訴した事件において、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない(不利益変更禁止の原則)。しかし、複数の控訴事件を併合審理する場合、各第一審判決が言い渡した刑(不定期刑の場合はその最低限)を合算した範囲内であれば、原判決の刑より重い刑を言い渡したことにはならない。
重要事実
被告人Aは、第一審において懲役1年以上3年以下の不定期刑を言い渡された事件と、別件の第一審において懲役1年の刑に処せられた事件のそれぞれについて控訴した。第二審(原裁判所)はこれら2個の控訴事件を併合審理し、被告人に対し懲役1年6月の実刑を言い渡した。被告人側は、これが第一審の刑(不定期刑の最低限である1年、および別件の1年)と比較して重い刑を言い渡したものであり、旧刑訴法403条(不利益変更禁止)に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人Aが受けた第一の判決は懲役1年以上3年以下の不定期刑であり、その最低限は懲役1年である。また、第二の判決は懲役1年である。これらを合算すると、第二審においては少なくとも懲役2年までは言い渡すことが可能であると解される。原審が言い渡した刑は懲役1年6月であり、これは上記合算した範囲(懲役2年)を超えていない。したがって、第一審の刑よりも実質的に重い刑を科したとは認められず、不利益変更禁止の原則に抵触することはない。
結論
控訴審において複数の事件を併合して判決をする場合、各第一審判決の刑を合算した限度内であれば、不利益変更禁止の原則には反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法402条(不利益変更禁止)の適用場面において、併合審理時の判断基準を示す。答案上では、個別の事件ごとの刑期と比較するのではなく、合算した刑期を基準に「全体として不利益か」を論ずる際の根拠となる。なお、不定期刑についてはその下限を基準とすることも実務上の示唆となる。
事件番号: 昭和24(れ)2437 / 裁判年月日: 昭和25年3月3日 / 結論: 破棄自判
第一審においては、被告人に對して窃盜の事實を認定して、懲役十月に處する旨の判決を言渡し、同判決に對して被告人より控訴を申立て(檢事より控訴附帶控訴の申立てなく)第二審においては、同一事實を認定して被告人を懲役一年に處す、但し裁判確定の日より四年間右刑の執行を猶豫する旨の判決を言渡したが、かくのごとき場合、第一審の刑と第…
事件番号: 昭和24(れ)2386 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
被告人Aに對し、第一審判決は所論のごとく、同人を少年と認め四年以上六年以下の懲役及び罰金五百圓(金二〇圓を一日に換算して勞役場留置を言渡し、原審判決は成年として懲役三年及び罰金千圓(換算率前同様)を言渡したことは記録上明白である。されば懲役三年及び罰金千圓を言渡した原判決の宣告刑は、第一審判決の宣告刑に比べると、罰金に…
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。