第一審判決は公訴にかゝる甲罪と乙罪とを併合罪して被告人に懲役八月を科したのであるが、原審に至り被告人に甲罪犯行後丙罪につき、また乙罪犯行後丁罪につき、それぞれ確定判決があつたことがわかつたので、原判決は甲丙二罪を併合罪として乙罪につき懲役三月を、また乙丁二罪を併合罪として乙罪につき懲役五月を科した。論旨はその點をとらえて、原判決は舊刑訴法第四〇三條不利益變更禁止の規定に違反すると非難する。しかしながら右法條に「原判決の刑より重き刑を言渡す」というのは、主文における科刑が原判決より重い意味であるから、本件のごとく第二審判決の刑が合計して第一審の刑と同様懲役八ケ月である以上、不利益變更があつたと言い得ず、また論旨の言うような、懲役刑が單一である場合と二個となつた場合とで「被告人の利益に重大なる關係あり、即實際上の取扱において非常の差異の生ずる」ということは、刑の執行、假出獄、時効等についても考えられないところであつて、いずれにせよ論旨は理由がない。
第一審において甲罪と乙罪とを併合罪として懲役八月を科し、第二審において甲罪につき懲役三月、乙罪につき同五月を科した場合と不利益變更の禁止
刑法45條,舊刑訴法403條
判旨
不利益変更禁止の原則における「重い刑」とは、主文で言い渡された科刑を全体として比較すべきであり、刑法45条後段の併合罪関係により刑が分割されても、合計刑期が不変であれば不利益変更には当たらない。また、併合罪関係を認定するための前科事実は「罪となるべき事実」ではないため、厳格な証明を要しない。
問題の所在(論点)
1. 併合罪関係により一つの懲役刑が二つの懲役刑に分割された場合、合計刑期が同一であっても不利益変更禁止の原則に反するか。2. 刑法45条後段の併合罪関係を認定するための資料(前科事実)について、厳格な証明を必要とするか。
規範
1. 不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)にいう「原判決の刑より重い刑」とは、主文における科刑を全体として比較して判断すべきである。2. 刑法45条後段の併合罪関係を認定するための基礎となる事実は、構成要件に該当する「罪となるべき事実」ではないため、必ずしも公判廷における厳格な証拠調べを経た証拠によって認定することを要しない。
重要事実
第一審は被告人の甲罪と乙罪を併合罪として懲役8月を言い渡した。控訴審において、甲罪の後に丙罪の、乙罪の後に丁罪の各確定判決があったことが判明したため、刑法45条後段に基づき刑を分離し、甲罪に懲役3月、乙罪に懲役5月を言い渡した(合計8月)。弁護人は、刑が二個に分割されたことは被告人に不利益であり、かつ前科の認定に証拠調べを経ない書面を用いたことは違法であると主張して上告した。
あてはめ
1. 刑の重比は主文の科刑全体で判断すべきであり、本件では合計懲役8月で第一審と変わらない。懲役刑が単一から二個に分かれたとしても、刑の執行、仮出獄、時効等の実務上の取扱において被告人に重大な不利益が生じるとは認められない。2. 前科事実は、刑法45条後段の適用関係を判断するための資料にすぎず、犯罪の構成要件をなす「罪となるべき事実」には該当しない。したがって、証拠調べを経ない前科調書によってこれを認定しても適法である。
結論
本件控訴審判決は不利益変更禁止の原則に違反せず、また前科事実の認定手続きにも違法はない。上告棄却。
実務上の射程
実務上、不利益変更の有無は「主文の刑」の比較によるという基準を明確にした。また、併合罪の処理に必要な前科等の情状的事実は、厳格な証明の対象外(自由な証明で足りる)であることを示しており、答案上は刑事訴訟法335条1項の「罪となるべき事実」の範囲を論じる際の根拠として活用できる。
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一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…