一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計額を表示する等これによつて其行爲の内容が同一罪質を有する複數のものであることを知り得べき程度に表示すれば十分であることは當裁判所判例の示す所である。昭和二二年(れ)第九二號同二二年一二月四日、第一小法廷判決言渡) 二 刑事訴訟法第四〇三條の所謂不利益變更禁止の規定は被告人が控訴した事件又は被告人の爲に控訴した事件については控訴審の判決において第一審判決の主文の刑を重く變更することはできないという趣旨であつて、たとい控訴審において第一審が有罪と認定した犯罪事實中の一部分については犯罪の成立を認めないで、しかも第一審判決と同一の刑を言渡したとしても第一審判決の主文の刑を重く變更したとは言い得ない。 三 証拠説明は、必ずしも証拠の内容を一々摘録したり、原文のままを写録したりすることを要するものではなく、その趣旨を摘示し、或はその題目を掲げて判示事実又は他の判示証拠と綜合してその内容を認識し得る程度に挙示することにより、如何かる事実が如何なる証拠によつて証明されるかを判文上示せば足りる。 四 勾留状を執行されてから六ケ月余を経過した後になされた自白であつても、被告人の数が九人で、犯行は約一年三ケ月間にわたり、その間単独或は二名乃至五名が共謀して強盗傷人、強盗各一件、強盗予備二件、窃盗二三件にのぼる犯罪をした案件においては、右自白は、刑訴応急措置法第一〇条第二項にいわゆる「不当に長く拘禁された後の自白」にあたらない。 五 論旨は第一審で認定した犯罪行爲の一部が第二審で無罪になつたかにかかわらず刑が同じでは結局上訴しても不利益を受けることになり、かくの如きは憲法違反であるというのであるが同じ刑である以上實質上不利益ということは有り得ない。かかる有り得ない事實を前提として憲法違反であるという論旨の如きは裁判所第一〇條にいう「法律命令又は處分が憲法に適合するか否かを判断するとき」に該當しない。
一 連續犯の判示の具體性の程度 二 控訴審において第一審が有罪と認定した犯罪事實の一部を無罪としながら第一審と同一の刑を言渡した場合と不利益變更禁止 三 証拠説明の方法 四 刑訴応急措置法第一〇条第二項と六ケ月余の拘禁後の自白 五 實質上理由のない不利益變更禁止規定違反の主張と裁判所第一〇條
刑法55條,刑法60條,刑訴法360條1項,刑訴法403條,刑訴法360条,刑訴法130條,刑訴応急措置法10条2項,裁判所法10條
判旨
不利益変更禁止の原則は、控訴審において第一審判決の主文の刑より重い刑を科すことを禁ずるものであり、一部の罪が免訴や無罪となっても、全体の刑が第一審と同一であれば同原則に反しない。
問題の所在(論点)
第一審で有罪とされた数罪(または一部の事実)の一部について、控訴審で無罪としながら、第一審と同一の刑を科すことは、刑事訴訟法402条が禁ずる「不利益な変更」に該当するか。
規範
刑事訴訟法402条(旧403条)の不利益変更禁止の規定は、被告人が控訴した事件等について、控訴審が第一審判決の「主文の刑」を重く変更することを禁止する趣旨である。したがって、被告人が有罪とされた犯罪事実の一部について控訴審が犯罪の成立を認めない(無罪等とする)場合であっても、宣告する刑が第一審と同一であれば、主文の刑を重くしたとはいえず、同原則には抵触しない。
重要事実
第一審判決は、被告人の行為を強盗予備罪と窃盗罪の連続犯と認定し、懲役1年に処した。これに対し被告人が控訴したところ、控訴審(原審)は、強盗予備の点については証拠不十分として無罪としたものの、窃盗の事実については有罪と認め、第一審と同様に懲役1年の刑を言い渡した。被告人側は、一部が無罪となったにもかかわらず刑が同一であることは、実質的に不利益な変更であり、憲法等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
不利益変更の有無は、判決主文に掲げられた刑の種類および分量を形式的に比較して判断すべきである。本件において、第一審の主文が懲役1年であるのに対し、原審も同様に懲役1年を言い渡しており、刑の重さ自体に変更はない。たとえ一部の事実について無罪が言い渡されたとしても、それは判決の理由(罪数や犯罪事実に係る評価)に変化が生じたにすぎず、主文の刑が重く変更されたことにはならない。よって、実質的に不利益を受けるという主張には理由がない。
結論
控訴審において犯罪事実の一部を無罪としても、第一審と同一の刑を言い渡すことは、不利益変更禁止の原則に反しない。
実務上の射程
数個の罪の間で一部が無罪・免訴等となった場合や、罪名が軽いものに変更された場合であっても、最終的な宣告刑が重くなければ402条違反とはならない。答案上は、不利益変更禁止の対象が「主文の刑」であることの論拠として本判例を活用できる。
事件番号: 昭和33(あ)741 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。