被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。
控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科した場合と刑訴法第四〇二条。
刑訴法402条,刑訴法411条1号
判旨
不利益変更禁止の原則における「刑」の重軽の比較は、主文における科刑を基準とするため、一部の犯罪事実が控訴審で無罪となっても、主文で言い渡された刑が第一審と同一であれば同原則に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、控訴審が一部の犯罪事実を無罪としながら、有罪とした残りの事実に対して第一審と同一の刑を科すことは、刑訴法402条の不利益変更禁止の原則に違反するか。
規範
刑事訴訟法402条にいう「原判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」とは、控訴審判決の主文における科刑を、第一審判決のそれと比較して重くすることを意味する。したがって、一部の犯罪事実が控訴審で無罪となり有罪事実が減少したとしても、言い渡される刑そのものが第一審と同一であれば、刑が重く変更されたとはいえない。
重要事実
被告人は、第一審において計74件の窃盗罪につき有罪と認められ、懲役1年に処せられた。被告人のみが控訴したところ、控訴裁判所は右犯罪事実のうち3件を無罪と認めて第一審判決を破棄自判したが、被告人に対し第一審と同一の懲役1年を言い渡した。
あてはめ
本件では、第一審で懲役1年とされた74件の事実のうち、控訴審で3件が減少し71件が有罪とされた。しかし、不利益変更禁止の対象となる「刑」とは主文に示される具体的な科刑を指す。本件控訴審が言い渡した刑は懲役1年であり、これは第一審判決の科刑と同一である。したがって、有罪とされた犯罪事実の数が減少していたとしても、判決主文における科刑が第一審より重くなっていない以上、不利益な変更には当たらない。
結論
控訴審が第一審と同一の刑を言い渡したことは、刑訴法402条に違反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則(402条)の判断基準が「判決主文の科刑」にあることを示した重要判例である。実務上、併合罪の一部が無罪となった場合や情状事実が被告人に有利に変更された場合であっても、主文の刑が変わらなければ不利益変更には当たらないという処理を正当化する際に用いる。
事件番号: 昭和23(れ)748 / 裁判年月日: 昭和23年11月16日 / 結論: 棄却
一 被告人が控訴をした事件について第一審判決後被告人から被害者に被害の辨償ができた等被告人に有利の情況が生じた場合であつても控訴裁判所は必ずしも第一審判決の刑より輕に刑を言渡さなければならないものではなく、犯情その他諸般の事情にょつて第一審判決と同一の刑を言渡すことができるものである。そして、刑事訴訟法第四〇三條に所謂…
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和39(あ)61 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文…