一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較と刑の執行猶予の言渡の有無 二 刑訴法四〇二条に違反しないとされた事例
刑訴法402条
判旨
不利益変更禁止の原則(刑事訴訟法402条)における刑の軽重の判断は、各判決の刑を総体的に比較して実質的に考察すべきであり、執行猶予の有無を当然に考慮すべきである。第一審が実刑(懲役1年)を言い渡し、控訴審が刑期を延長しつつ執行猶予(懲役1年6月、執行猶予3年)を付した場合、実質的に被告人に不利益とはいえず、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、控訴審が第一審の実刑(刑期短)を破棄し、執行猶予付きの刑(刑期長)を言い渡すことが、刑事訴訟法402条の禁止する「第一審判決の刑より重い刑を言い渡すこと」に該当するか。
規範
刑事訴訟法402条にいう「第一審判決の刑より重い刑」に該当するか否かは、各判決の具体的な刑を総体的に比較して実質的に考察すべきである。その際、刑の執行を猶予する旨の言渡しは、刑そのものの言渡しではなく執行に関する形態の言渡しであるが、取り消されない限り現実に刑の執行を受ける必要がなく、猶予期間経過により刑の言渡し自体が効力を失うという実質的・社会的価値を高く評価すべきである。したがって、刑の軽重の判断にあたっては、執行猶予の有無を当然に考慮しなければならない。
重要事実
第一審判決が、被告人に対し懲役1年(未決勾留日数中70日算入)の実刑を言い渡した。これに対し被告人側のみが量刑不当を理由に控訴したところ、原審(控訴審)は第一審判決を破棄し、懲役1年6月(未決勾留日数中70日算入)、3年間の執行猶予(保護観察付)の判決を言い渡した。弁護人は、主刑の刑期が第一審より長くなっているため、不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審の懲役1年に対し、原審は懲役1年6月を言い渡しており、主刑の刑期そのものは6か月延長されている。しかし、原審の判決には保護観察付とはいえ執行猶予が付されている。執行猶予が付された場合、直ちに刑の執行を受ける必要がなく、猶予期間を無事に経過すれば刑の言渡しの効力自体が消滅するという多大な利益がある。これを踏まえ主文を全体として総合的に観察すれば、執行猶予が付されたことによる利益は刑期の延長という不利益を上回るものといえる。したがって、実質上被告人に不利益であるとは認められない。
結論
控訴審が、第一審の実刑よりも長い刑期を定めつつ執行猶予を付した判決は、刑を実質的に考察すれば「重い刑」を言い渡したものとはいえず、刑訴法402条に違反しない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則における刑の軽重の判断基準として、形式的な刑期の比較ではなく「実質的・総体的比較」という枠組みを提示している。答案上、主刑の重さと執行猶予の有無が対立する場面では、本判例を根拠に「直ちに刑の執行を受けないことの実質的価値」を強調して不利益変更の成否を論じる。なお、未決勾留日数の算入や罰金の併科等、他の量刑要素が含まれる場合も同様の総体的比較の手法を用いるべきことを示唆するものである。
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…
事件番号: 昭和39(あ)61 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文…
事件番号: 昭和25(れ)1461 / 裁判年月日: 昭和25年12月22日 / 結論: 破棄自判
原判決の刑と第一審判決のそれとをくらべてみると両者は未決勾留日数を本刑に通算する点を除いてその他の部分はすべて同じであるが、前者は後者において本刑に通算せられた第一審の未決勾留日数中、六〇日をその本刑に算入していないこと論旨の指摘するとおりである。しからば原判決の刑は第一審判決の刑より重いこと明らかである。しかるに本件…