原判決の刑と第一審判決のそれとをくらべてみると両者は未決勾留日数を本刑に通算する点を除いてその他の部分はすべて同じであるが、前者は後者において本刑に通算せられた第一審の未決勾留日数中、六〇日をその本刑に算入していないこと論旨の指摘するとおりである。しからば原判決の刑は第一審判決の刑より重いこと明らかである。しかるに本件は被告人のみの控訴申立にかゝわる事件であるから、右は旧刑訴法第四〇三条に違背し、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから論旨は理由がある。
旧刑訴法第四〇三条の不利益変更の禁止に違背した事例
旧刑訴法403条
判旨
被告人のみが控訴した事件において、原判決が第一審判決で算入されていた未決勾留日数を本刑に算入しなかった場合、不利益変更禁止の原則に抵触し違法である。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、宣告刑の刑期が同一であっても、第一審で算入されていた未決勾留日数を控訴審で算入しないことが、不利益変更禁止の原則(旧刑事訴訟法403条、現刑事訴訟法402条)に抵触するか。
規範
被告人が控訴した事件(または被告人のため控訴が申し立てられた事件)については、原判決の刑より重い刑を科すことはできない(不利益変更禁止の原則)。刑の軽重の判断にあたっては、宣告された刑期のみならず、未決勾留日数の算入の有無やその日数も考慮すべき要素となる。
重要事実
被告人のみが控訴を申し立てた公文書偽造、同行使、詐欺被告事件において、第一審判決は懲役二年に処した上で未決勾留日数中六〇日を本刑に算入していた。これに対し、控訴審(原判決)は第一審と同様の懲役二年に処したが、第一審で認められていた未決勾留日数の算入(六〇日)を行わなかった。
あてはめ
第一審判決と原判決を比較すると、宣告された刑期自体は共に懲役二年で同一である。しかし、未決勾留日数の本刑算入について、第一審は六〇日の算入を認めていたのに対し、原判決はこれを全く算入していない。この場合、実質的に受刑者が服すべき期間は原判決の方が第一審判決より長くなるため、原判決の刑は第一審判決の刑よりも重いといえる。
結論
被告人のみの控訴にかかわらず、第一審より重い刑を科した原判決は不利益変更禁止の原則に違背する。よって原判決を破棄し、懲役二年に処した上で未決勾留日数六〇日を本刑に算入する自判を行う。
実務上の射程
刑事訴訟法402条(不利益変更禁止)の適用局面において、刑の軽重を「主文に現れた刑期」のみで形式的に判断するのではなく、未決勾留日数の算入等を含めた実質的な不利益の有無で判断すべきであることを示した重要な射程を持つ。答案上は、判決の帰結が被告人に不利に転換していないかを検討する際の具体的メルクマールとして活用できる。
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和24(れ)1165 / 裁判年月日: 昭和24年9月20日 / 結論: 棄却
本件は被告人から第一審判決に對し上訴(控訴)を申し立て、第二審判決は第一審判決が有罪と認めた窃盜の點については無罪を言渡し、刑も第一審判決が懲役三年だつたのを、第二審判決は懲役一年六月に處したものであつて、すなわち被告人の控訴申立はその理由ありと認められたのである。ところで舊刑訴法第五五六條第一項によれば「上訴申立後ノ…
事件番号: 昭和25(れ)1419 / 裁判年月日: 昭和26年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告は第二審の判決に対してなされるべきものであり、第一審判決の違法のみを主張し第二審判決の違法を主張しない上告理由は不適法である。 第1 事案の概要:被告人側が、第二審(控訴審)の判決ではなく第一審の判決に違法がある旨のみを主張して上告を提起した事案。 第2 問題の所在(論点):第一審判決の違法の…