第一審においては、被告人に對して窃盜の事實を認定して、懲役十月に處する旨の判決を言渡し、同判決に對して被告人より控訴を申立て(檢事より控訴附帶控訴の申立てなく)第二審においては、同一事實を認定して被告人を懲役一年に處す、但し裁判確定の日より四年間右刑の執行を猶豫する旨の判決を言渡したが、かくのごとき場合、第一審の刑と第二審の刑といずれが、被告人にとつて利益であるかを較量することは、必ずしも容易なことではないのであるけれども本件のごとき第二審において第一審の懲役刑よりも長い懲役刑に處したときは、たとえ右刑の執行を猶豫する旨の言渡をした場合でも、舊刑訴法第四〇三條にいわゆる「原判決ノ刑ヨリ重キ刑」を言渡したことに該當するものと解しなければならない。
第一審判決より重い懲役刑に處し、新たに執行獪豫を宣した第二審判決と不利益變更の禁止
舊刑訴法403條
判旨
被告人のみが控訴した事件において、第一審の懲役刑より長い刑期を言い渡すことは、たとえ執行猶予を付したとしても、不利益変更禁止の原則に反し許されない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、第一審の実刑判決(懲役10月)に対し、第二審がこれより長い刑期の執行猶予付き判決(懲役1年・執行猶予4年)を言い渡すことが、不利益変更禁止の原則に違反するか。
規範
被告人が控訴した事件において、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない(不利益変更禁止の原則)。刑の軽重の判断にあたっては、主刑である懲役刑の期間を基準とすべきであり、執行猶予の有無にかかわらず、刑期が長期化する場合は「原判決の刑より重い刑」に該当する。
重要事実
被告人は窃盗罪により第一審で懲役10年の実刑判決を受けた。被告人のみが控訴したところ、第二審(控訴審)は、第一審と同一の事実を認定しながら、被告人に対し懲役1年、執行猶予4年の判決を言い渡した。検察官は、この判決が不利益変更禁止の原則(旧刑事訴訟法403条)に抵触するとして上告した。
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
あてはめ
旧刑法および旧刑事訴訟法(現行法402条も同趣旨)の規定によれば、被告人の利益を保護するため、控訴審は原判決より重い刑を科せない。本件では、第一審の懲役10月に対し、第二審は懲役1年を言い渡している。執行猶予は刑の執行を猶予する制度にすぎず、主刑である懲役の期間が長くなっている以上、たとえ執行猶予が付されたとしても、客観的に刑そのものが重くなっていると評価せざるを得ない。したがって、本件第二審判決は不利益変更禁止の規定に違背する。
結論
原判決を破棄する。被告人を懲役10月に処し、4年間の執行猶予を付すのが相当である。
実務上の射程
刑事訴訟法402条(不利益変更禁止)の解釈において、実刑と執行猶予付き判決の比較であっても、まずは主刑の種類および刑期によって軽重を判定するという実務上の原則を確立した判例である。答案上は、刑期の長期化が執行猶予の付与という利益を上回る不利益とみなされる点に留意して論証する。
事件番号: 昭和33(あ)741 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…