所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文に徴して明らかである。従つて第一審判決、原判決の各宣告刑はいづれも無期懲役刑であつて、後者が前者の刑より重い刑を言渡したという関係にはないのであり、刑訴法第四〇二条に違反するかどうかは、言渡刑について判断すべきものであるから、右各選択の比較のみに頼つて原判決を非難する所論は失当である(昭和二三年(れ)第七四八号同年一一月一六日第三小法廷判決、刑集二巻一二号一五四三頁参照)。
第二審判決と不利益変更の禁止。
刑訴法402条,刑法10条,刑法39条,刑法68条
判旨
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の成否は宣告刑を基準に判断すべきであり、検察官の控訴がある場合は同条の適用自体が排除される。第一審の無期懲役に対し、控訴審が死刑を選択した上で心神耗弱による減軽を行い無期懲役を宣告しても、宣告刑が同一である以上は同条に違反しない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法402条の「原判決の刑より重い刑」の判断基準は、選択刑や処断刑の段階を含むのか、それとも宣告刑のみを指すのか。また、双方が控訴した場合に同条の適用は排除されるか。
規範
1. 刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則は、被告人が控訴し、又は被告人のため控訴した事件において、原判決の刑より重い刑を言い渡すことができないとする原則であり、その比較は「宣告刑」を基準として判断する。2. 同条の原則は、被告人側のみが控訴した場合に適用され、被告人と検察官の双方が控訴した場合には適用が排除される。この際、検察官の控訴理由が認められたか否かは問わない。
重要事実
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
第一審判決は、強盗殺人被告事件について、無期懲役刑を選択して宣告した。これに対し、被告人及び検察官の双方が控訴した。控訴審は、第一審が認めなかった被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、第一審判決を破棄した。その際、控訴審は法定刑のうち死刑を選択したが、心神耗弱による法定減軽を行い、改めて無期懲役刑を宣告した。弁護人は、選択刑として死刑を選んだことが不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審判決と控訴審判決の宣告刑はいずれも無期懲役刑であり、後者が前者より重い刑を言い渡したという関係にはない。刑訴法402条に違反するか否かは、具体的な言い渡し刑(宣告刑)について判断すべきであるから、控訴審が死刑を選択したとしても、最終的な宣告刑が同一である以上、同条違反の余地はない。さらに、本件は被告人のみならず検察官からも控訴がなされている事案である。検察官の控訴がある以上、そもそも同条の適用が排除される場面であり、検察官の控訴理由が認められたか否かを問わず、一審より重い刑を科すことも理論上可能である。
結論
不利益変更禁止の判断基準は宣告刑であり、本件は宣告刑が同一であるため同条に違反しない。また、検察官の控訴がある場合には同条の適用自体がないため、いずれにせよ弁護人の主張は失当である。
実務上の射程
不利益変更禁止の判断基準が「宣告刑」であることを明示した重要判例。答案では、第一審で懲役3年執行猶予5年、控訴審で懲役2年執行猶予なしとなった場合に、主刑の軽重だけでなく執行猶予の有無を含めた「実質的な不利益」を検討する際の前提知識として用いる。また、双放控訴の場合には不利益変更禁止の制約がなくなるという訴訟構造の基本としても参照される。
事件番号: 昭和33(あ)741 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和23(れ)745 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事實を具體的に判示する該其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計…