一 正當防衞の主張は舊刑訴法第三六〇條第二項の主張であるから、これに對し判斷を示さなければならないけれども、その判斷の證據上の理由を示すことは法律上何ら要求されていない。從つて原判決が過剰防衞を認めてその主張に對する判斷を示した以上その證據上の理由を示さなかつたからといつて判斷遺脱の違法あるとは云えない。 二 舊刑訴法第四〇三條の規定は、原第一審判決主文の刑を重く變更することを禁止する趣旨であつて主文の因て生ずる理由すなわち事實の認定、量刑の事由法律の適用等を原判決より不利益に變更することを妨げるものではない。
一 舊刑訴法第三六〇條第二項の主張に對する判斷の理由を明示しない判決の正否 二 舊刑訴法第四〇三條と事實の認定量刑の事由、法律の適用等を原判決より不利益に變更することの可否
刑法36條2項,舊刑訴法360條2項,舊刑訴法403條
判旨
不利益変更禁止の原則は判決主文の刑を重く変更することを禁じるものであり、主文に至る理由において事実認定や法律適用を被告人に不利益に変更してもこれに違反しない。また、勾留中に作成された検察官聴取書であっても、被告人が署名捺印等の手続を経ている限り、特段の事情がない限り任意性を認めることができる。
問題の所在(論点)
1. 控訴審において、主文の刑を変更せずに自首の認定等の理由中の事実認定や法律適用を被告人に不利益に変更することが、不利益変更禁止の原則に違反するか。2. 勾留中に作成された検察官聴取書の任意性が認められるか。
規範
不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条、現行402条)は、控訴審において原判決の「主文」の刑を重く変更することを禁止する趣旨である。したがって、主文の刑が変わらない限り、事実の認定、量刑の事由、法律の適用等の「理由」を被告人に不利益に変更することは許容される。また、自白の任意性は、単に勾留中になされたという一事をもって否定されるものではない。
重要事実
被告人が殺意をもって被害者を突き刺したとされる事案において、第一審は自首による刑の減軽を認めて判決を言い渡した。控訴審において、裁判所は第一審が認めた自首を否定したが、主文において言い渡す刑の重さは第一審と同一に維持した。これに対し、被告人側は、自首による減軽を排除したことは不利益変更にあたること、および勾留中の検察官聴取書には任意性がないこと等を理由に上告した。
あてはめ
1. 不利益変更について、本件では原判決(控訴審)は第一審が認めた自首に基づく減軽を排斥している。しかし、宣告された主文の刑自体は第一審と同一である。主文の刑を重くしていない以上、判決に至る過程で自首を否定する法律適用を行っても、不利益変更禁止の規定に違反するものではない。2. 自白の任意性について、検察官聴取書が作成された際に被告人が勾留中であったとしても、それだけで直ちに任意性を欠くとはいえない。被告人は聴取内容の読み聞かせを受け、相違ない旨を申し立てた上で署名拇印している。反証のない限り、これらの手続を経て作成された書面には任意性が認められる。
結論
控訴審が主文の刑を重くしない範囲で理由中の認定を変更することは適法である。また、勾留中の自白であっても署名捺印等の形式を備えていれば任意性は推定され、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則の射程が「主文の刑」に限定されることを明示した重要判例である。答案上は、第1審で認められた減軽事由(自首や心神耗弱等)を控訴審が否定したとしても、最終的な刑期が同等以下であれば適法とする論拠として使用する。
事件番号: 昭和39(あ)61 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文…
事件番号: 昭和24(れ)1809 / 裁判年月日: 昭和24年11月8日 / 結論: 棄却
舊刑訴法第四〇三條のいわゆる不利益變更禁止とは、判決主文の刑即ち判決の結果を原判決の結果に比して、重い刑を云渡すことを禁ずる趣旨であること、しばしば當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇八號同年一一月八日第一小法廷判決、昭和二三年(れ)第八三八號同年一二月四日第二小法廷判決参照)に示されている通りである。しかるに本件第…