殺人罪として起訴された事案について、第一審判決が殺人予備と重過失致死で処断し、第二審がこれを破棄自判するに当り、訴因変更手続を経ることなく殺人罪として処断したとしても、第一審において訴因変更手続がとられた形跡が存しないときは、第二審は本来の訴因そのものにつき審判をしたに止まり、訴因変更手続要否の問題が生ずる余地は存しない。
第二審における訴因変更手続の要否。
刑訴法312条,刑訴法404条,刑訴規則209条,刑法199条,刑法201条,刑法211条後段
判旨
殺人罪として起訴された事案において、第一審が殺人予備罪及び重過失致死罪で処断したとしても、控訴審が訴因変更手続を経ずに殺人罪として処断することは、当初の訴因そのものを審判対象とするものである以上、適法である。
問題の所在(論点)
殺人罪として起訴された事案において、第一審が縮小された罪名(殺人予備・重過失致死)で認定した後に、控訴審が訴因変更手続を経ることなく当初の訴因(殺人罪)に基づき有罪判決を下すことが、訴因の原則(刑事訴訟法256条、312条1項)に抵触しないか。
規範
検察官により適法に提起された当初の訴因の範囲内において審判を行う場合には、第一審が当該訴因とは異なる罪名で有罪判決を下した場合であっても、控訴審が改めて当初の訴因に基づき有罪の認定をすることは、訴因変更手続を要しない。
重要事実
被告人は殺人罪として起訴されたが、第一審判決は殺人予備罪と重過失致死罪の成立を認め、これらを併合罪として処断した。これに対し、原審(控訴審)は第一審判決を破棄自判し、訴因変更手続を経ることなく、被告人を殺人罪として処断した。弁護人は、第一審が認定した事実と異なる殺人罪を認定するには訴因変更手続が必要であり、これを経ない原審の措置は違法であると主張して上告した。
あてはめ
本件は当初から殺人罪として起訴されており、第一審において訴因変更手続がとられた形跡は存在しない。そのため、原審において殺人罪の成立を認めることは、検察官が提示し維持してきた本来の訴因そのものを審判の対象としたにとどまる。したがって、裁判所が当初の訴因の範囲内で判断を示す以上、改めて訴因変更の手続を経る必要はなく、手続上の違法は認められない。
結論
控訴審が訴因変更手続を経ずに殺人罪として処断した措置は適法であり、上告は棄却される。
実務上の射程
第一審が縮小認定をした場合であっても、検察官が当初の訴因を撤回していない限り、控訴審において当初の訴因(重い罪名)を認定することは訴因変更手続を要しないことを確認した判例である。ただし、防御の準備に実質的な不利益が生じる場合には、争点設定の観点から別途検討が必要になる可能性がある点に留意すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)6580 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
殺人未遂の訴因に対し傷害と認定するについては、訴因変更の手続を経る必要はない。