殺人の起訴に対し刑法第三八条第二項を適用し同意殺人の責任を認めるときは、訴因、罰条の変更を必要としない。
訴因、罰条の変更を必要としない一事例
刑法199条,刑法202条,刑訴法312条
判旨
殺人の訴因に対し、刑法38条2項を適用して同意殺人の責任を認める場合、訴因変更の手続きを経る必要はない。
問題の所在(論点)
殺人罪として起訴された事案において、刑法38条2項を適用して同意殺人罪の責任を認める場合に、訴因変更の手続き(刑事訴訟法312条1項)が必要となるか。
規範
重い罪(殺人罪)の訴因で起訴された場合であっても、裁判所が実体審理の結果、法律の錯誤(刑法38条2項)により軽い罪(同意殺人罪)の刑を科すべきと判断したときは、原則として訴因変更の手続きを経ることなく、そのまま軽い罪の責任を認めることができる。
重要事実
被告人は殺人罪として起訴されたが、裁判所は審理の結果、被告人が被害者の同意があるものと誤信して殺害に及んだものと認定した。この事由に基づき、裁判所は刑法38条2項を適用し、同意殺人罪(刑法202条)の責任を認めて判決を下した。これに対し弁護側は、訴因変更や罰条変更の手続きを欠いたまま軽い罪を認めたことは違法であるとして上告した。
あてはめ
本件では殺人の起訴に対し、被告人が「重い罪(殺人)にあたるべき行為をしたのに、実行の時にその重い罪にあたらないと信じた」という刑法38条2項の事態が認められた。このような法律の錯誤の適用による既罰の縮小は、起訴された犯罪事実(殺人)の範囲内に包含される事態である。したがって、改めて訴因や罰条の変更を行うまでもなく、裁判所は適法に軽い罪の責任を認定し得ると解される。
結論
殺人罪の訴因から、刑法38条2項を適用して同意殺人罪の責任を認めるにあたり、訴因変更の手続きは不要である。
実務上の射程
重い罪の訴因の中に軽い罪が包含されており、被告人の防御に実質的な不利益を与えない場合には、訴因変更なしに軽い罪での処断が可能であるという「縮小認定」の法理を示す典型例として活用できる。
事件番号: 昭和41(あ)2470 / 裁判年月日: 昭和42年3月9日 / 結論: 棄却
起訴状記載の被告人が単独で被害者に対し暴行をした事実と、訴因罰条変更請求書記載の被告人が共犯者と被害者に対する暴行を共謀の上共犯者において殺意をもつて被害者に対し暴行し死に致らしめた事実との間には、公訴事実の同一性がある。