起訴状記載の被告人が単独で被害者に対し暴行をした事実と、訴因罰条変更請求書記載の被告人が共犯者と被害者に対する暴行を共謀の上共犯者において殺意をもつて被害者に対し暴行し死に致らしめた事実との間には、公訴事実の同一性がある。
公訴事実の同一性が認められた事例
刑訴法312条
判旨
暴行の事実と殺人の事実との間には公訴事実の同一性が認められ、訴因変更の手続きにより殺人罪への変更が可能である。また、殺人の共謀がある場合でも、重い罪の結果を予期しなかった者には、刑法38条2項に基づき傷害致死罪の限度で共同正犯が成立する。
問題の所在(論点)
1. 暴行の事実と殺人の事実との間に公訴事実の同一性が認められるか。2. 殺人の共謀がある場合に、殺意のない被告人に対し傷害致死罪の共同正犯を適用できるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、基本的事実関係が共通していれば認められる。また、共犯者間に殺人の共謀があった場合でも、特定の被告人に殺意が欠ける場合には、刑法38条2項により、認識していた傷害罪の範囲で死の結果について責任を負う傷害致死罪の共同正犯が成立する(刑法60条、205条)。
重要事実
被告人Aは他の共犯者と共に暴行に及んだが、当初の起訴状には暴行の事実が記載されていた。その後、検察官は殺人の事実に訴因変更を請求した。一審判決は、殺人の共謀はあったものの、被告人Aについては殺意(殺人罪の認識)を認めず、傷害致死罪の限度で罪責を認めた。
事件番号: 昭和52(あ)2113 / 裁判年月日: 昭和54年4月13日 / 結論: 棄却
暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合、殺意のなかつた他の共犯者については、傷害致死罪の共同正犯が成立する。
あてはめ
1. 暴行と殺人は、同一の被害者に対する一連の加害行為を構成するものであり、基本的事実関係において共通性があるため、公訴事実の同一性が認められる。2. 被告人Aは共犯者と加害行為を共同しているが、殺意という重い罪の認識が欠けている。この場合、刑法38条2項の「重い罪に当たるべき行為をしたのに、実行の時にその罪に当たることとなる事実を知らなかった」場合に該当し、軽い傷害罪の認識で死の結果を招いたものとして傷害致死罪(刑法205条)を適用するのが相当である。
結論
起訴状の暴行と訴因変更後の殺人の間には同一性が認められ、殺意のない被告人には刑法38条2項を適用して傷害致死罪の共同正犯が成立する。
実務上の射程
訴因変更における同一性の範囲を広く認める実務を裏付ける。また、抽象的事実の錯誤(刑法38条2項)が共同正犯の場面で適用される際、軽い方の構成要件(傷害致死罪)で重なり合う限度で処断されるという処理の典型例として機能する。
事件番号: 昭和23(れ)742 / 裁判年月日: 昭和23年11月30日 / 結論: 棄却
一 明示の意思の表示が無くても暗默にでも意思の連絡があれば共謀があつたといい得るのである。 二 公判外の自白と雖適法の證據調を經たものはこれを證據と爲し得ること勿論である。 三 原審の判示する處によれば判示被害者の死亡は被告人兩名の共謀による暴行の結果として發生したものであるから直接死因となつた暴行をした者がたとえ所論…
事件番号: 昭和43(あ)1470 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯成立に必要な共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない共謀者であっても刑法60条の共同正犯としての責任を負い、これは憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、特定の犯罪に関する共謀に加担した。共謀に基づき一部の者が実行行為を行ったが、被告人ら自身…