暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合、殺意のなかつた他の共犯者については、傷害致死罪の共同正犯が成立する。
暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合における他の共犯者の罪責
刑法38条2項,刑法60条,刑法199条,刑法205条1項
判旨
共犯者間に異なる故意がある場合、各犯罪の構成要件が重なり合う限度で軽い罪の共同正犯が成立する。暴行・傷害を共謀した者が、共犯者の一人による未必の殺意に基づき結果として被害者を死亡させた場合、殺意のない者には傷害致死罪の共同正犯が成立する。
問題の所在(論点)
共犯者の一部が共謀の範囲を超えて殺意をもって殺人を実行した場合において、殺意のない他の共謀者にいかなる罪の共同正犯が成立するか。殺人罪と傷害致死罪の間の構成要件的重なり合いが問題となる。
規範
数人が共同して犯罪を実行した場合において、各自の意図する罪が異なる(いわゆる共犯の錯誤がある)ときは、各罪の構成要件が実質的に重なり合う限度において、共同正犯が成立する(刑法60条、38条2項の趣旨)。具体的には、重い殺人罪と軽い傷害致死罪とは、殺意の有無という主観的面を除き、暴行・傷害という客観的な構成要件要素を共通にしているため、傷害致死罪の限度で重なり合いが認められる。
重要事実
暴力団員である被告人ら数名は、警察官に対し暴行・傷害を加える旨を共謀し、路上で当該警察官に対し罵声を浴びせるなどした。その際、共謀に加わっていた一人の組員が、未必の殺意をもって所携のくり小刀で警察官を突き刺し、失血死させて殺害した。被告人らには殺意は認められず、暴行・傷害の故意のみが認められた。
あてはめ
本件において、実行行為者である組員が殺人罪を犯した事実は、客観的には共謀に起因して実現されたものである。しかし、被告人らには殺意がなく、殺人罪の共同正犯の意思(故意)を欠くため、同罪の成立は認められない。一方で、殺人罪と傷害致死罪は殺意の有無のみが異なり、その他の客観的要素は同一である。したがって、両罪は傷害致死罪の限度で構成要件が重なり合うといえる。被告人らが暴行・傷害の意思で共謀し、その結果として被害者が死亡した以上、この重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立すると解される。
結論
被告人らには傷害致死罪の共同正犯が成立する(第一審の法令適用は結論において維持される)。
実務上の射程
共犯の錯誤(抽象的事実の錯誤)における判例の確立した立場(構成要件的重なり合い説)を示す重要判例である。答案上は、まず共謀及びそれに基づく実行行為を認定した後、実行行為者が共謀を超えた罪を犯した場合の処理として、本規範を引用して軽い罪の成立を導く。
事件番号: 昭和32(あ)802 / 裁判年月日: 昭和33年6月17日 / 結論: 棄却
A方を襲撃して暴行を加えることを共謀した者は、右共謀にもとづく襲撃の結果連行されたAを、実行担当者がさらに某所で殴りつけることを謀議してこれを実行した事実を知らなかつたとしても、その暴行の結果生じたAの死亡につき傷害致死罪の責任を免れない
事件番号: 昭和29(あ)1056 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: 棄却
一 いわゆる共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が存しなければならない 二 いわゆる共謀共同正犯成立に必要な共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しな…
事件番号: 昭和56(あ)1662 / 裁判年月日: 昭和57年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立において、共謀の内容が具体的かつ詳細に判示されていることは必ずしも必要ではなく、犯罪の実行を合意したといえる程度の判示があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人らは、多衆の威力を用いて犯罪を実行したとして起訴された事案において、共謀の事実認定に具体性が欠けるとして判例違反を主張し…