一 いわゆる共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が存しなければならない 二 いわゆる共謀共同正犯成立に必要な共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行つたという意味において、共同正犯の刑責を負うもので、かく解することは憲法第三一条に違反しない 三 「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならず、これを認めるためには厳格な証明によらなければならない 四 共謀の判示は、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についてまで、いちいち具体的に判示することを要しない 五 憲法第三八条第二項は、強制、拷問若しくは脅迫による自白または不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白の証拠能力を否定したものである 六 憲法第三八条第三項の規定は、被告人本人の自白の証拠能力を否定または制限したものではなく、かかる自白の証明力(証拠価値)に対する自由心証を制限し、被告人本人を処罰するには、さらにその自由の証明力を補充しまたは強化すべき他の証拠(いわゆる補強証拠)を要することを規定したものである 七 共同審理を受けていない単なる共犯者は勿論、共同審理を受けている共犯者(共同被告人)であつても、被告人本人との関係においては、被告人以外の者であつて、かかる共犯者または共同被告人の犯罪事実に関する供述は、憲法三八条二項とごとき証拠能力を有しないものでない限り、独立、完全な証明力を有し、憲法三八条三項にいわゆる「本人の自白と同一視し、またはこれに準ずるものではない 八 同一の犯罪について、数人の間の順次共謀が行われた場合は、これらの者のすべての間に当該犯行の共謀が行われたものと解するを相当とし、数人の間に共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、その数人の間に一個の共謀の成立することを必要とするものではない
一 いわゆる共謀共同正犯の成立要件 二 実行行為に関与しない共謀者の刑責と憲法第三一条 三 「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」であるか 四 共謀の判示方法 五 憲法第三八条第二項の法意 六 憲法第三八条第三項の法意 七 被告人本人との関係における共犯者の犯罪事実に関する供述と、憲法第三八条第三項にいわゆる「本人の自白」 八 数人間の順次の共謀と共謀共同正犯の成立
刑法60条,憲法31条,憲法38条2項,憲法38条3項,刑訴法335条,刑訴法335条1項,刑訴法317条,刑訴法318条,刑訴法319条
判旨
共謀共同正犯が成立するには、特定の犯罪を行うため共同意思の下に一体となって他人の行為を利用し各自の意思を実行に移す謀議が必要であるが、直接実行行為に関与しない者も他人の行為を自己の手段としたといえるため、分担役割の有無は刑責の成立を左右しない。また、共犯者の自白は憲法38条3項の「本人の自白」には当たらないため、補強証拠がなくとも独立の証明力を有する。
問題の所在(論点)
1.共謀共同正犯の成立に、実行行為への直接関与や具体的な役割分担の判示が必要か。2.順次共謀による共同正犯の成否。3.共犯者の自白は憲法38条3項の「本人の自白」に含まれ、補強証拠が必要となるか。
事件番号: 昭和29(あ)2576 / 裁判年月日: 昭和29年10月26日 / 結論: 棄却
共犯者たる共同被告人Aの所論検察官に対する供述調書と第一審判決挙示のB、その他の被害者の第一審公判廷における供述等によつて処罰することが憲法三八条三項に違反しないことは既に当裁判所判例の趣旨とするところであるから、論旨は採用するに由ない(昭和二六年(れ)第一三三号同年六月二九日第二小法廷判決参照)。
規範
1.共謀共同正犯の成立要件は、二人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行したことである。共謀が認められる以上、直接実行行為への関与や役割分担は刑責の成立に差異を生じさせない。2.憲法38条3項にいう「本人の自白」とは被告人自身の供述を指し、共犯者や共同被告人の供述は「被告人以外の者」の供述であるから、補強証拠を要せず独立の証明力を有する。
重要事実
被告人AおよびBを含む複数名が、巡査らを殴打する計画を立てた。被告人Bが被告人Aに対し、参加人員、集合場所、実行方法等の指示を出し共謀した。Aはその指示に基づき、順次他の被告人らと共謀を広げていった。原審は、共謀を否認した被告人に対し、他の共同被告人の自白を独立の証拠として有罪を認定した。これに対し被告人側は、共謀の内容が具体的でないことや、共犯者の自白のみで有罪とすることが憲法38条3項に反すると主張して上告した。
あてはめ
1.共謀は「罪となるべき事実」として厳格な証明を要するが、謀議の趣旨が成立したことが明らかにされれば足り、実行方法の詳細や各自の具体的な役割分担までを個別に判示する必要はない。2.数人が同一の場所に会して同時に共謀する必要はなく、甲乙間、乙丙間というように順次共謀が行われれば、全員の間に共謀が成立したと解される。3.共同被告人は被告人本人との関係では証人と本質を異にしない。自由心証主義の例外である憲法38条3項は厳格に解釈すべきであり、共犯者の自白を「本人の自白」と同一視することはできないため、他の補強証拠がなくとも被告人の有罪を認定できる。
結論
被告人らの上告を棄却する。実行行為に直接関与しない共謀共同正犯も成立し、その認定において共犯者の自白は補強証拠を要しない。
実務上の射程
共謀共同正犯の基本構造を定義したリーディングケースであり、特に「順次共謀」の肯定と、共犯者の自白が補強証拠不要である(独立証拠となる)点は刑事訴訟法上の重要論点として答案に頻出する。共謀の判示程度についても実務上の指針となっている。
事件番号: 昭和28(あ)4832 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立には、共犯者間での意思の疎通(共謀)が必要であるが、その認定は事実審の証拠判断および事実認定の専権に属する。また、量刑の不当は原則として適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人が他の相被告人らと共に犯行に及んだとして起訴された事件において、被告人側は、被告人と相被告…
事件番号: 昭和46(あ)451 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立要件と憲法第31条の関係 第1 事案の概要:本件において、上告人(被告人)らは、いわゆる共謀共同正犯としての刑責を問われた。弁護側は、直接実行行為に関与していない者に対して共同正犯の責任を負わせることは、罪刑法定主義ないし適正手続を定めた憲法31条に違反すると主張して上告した。 …
事件番号: 昭和32(あ)802 / 裁判年月日: 昭和33年6月17日 / 結論: 棄却
A方を襲撃して暴行を加えることを共謀した者は、右共謀にもとづく襲撃の結果連行されたAを、実行担当者がさらに某所で殴りつけることを謀議してこれを実行した事実を知らなかつたとしても、その暴行の結果生じたAの死亡につき傷害致死罪の責任を免れない
事件番号: 昭和56(あ)1662 / 裁判年月日: 昭和57年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立において、共謀の内容が具体的かつ詳細に判示されていることは必ずしも必要ではなく、犯罪の実行を合意したといえる程度の判示があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人らは、多衆の威力を用いて犯罪を実行したとして起訴された事案において、共謀の事実認定に具体性が欠けるとして判例違反を主張し…