一 所論第一点は憲法三六条、一一条、一三条を引用して原判決の憲法違反をいうけれども結局量刑の非難であつて上告適法の理由にならない。若し刑の執行により著るしく健康を害する事情にあれば刑訴四八二条一号により刑の執行を停止することができるのであつて、犯行時心神耗弱の状態にあつたからといつて必ず刑の執行を猶予しなければならないものではない。 二 心神障碍あるにより、軽減されたしとの控訴趣意を理由ありとして一審判決を破棄し乍ら同一の刑に処したのは理由不備、刑訴四〇二条違反というのであるが、原判決は心神耗弱の点は理由があるが、未だ執行猶予を与うべきものでないと判断したこと明らかでそこに何ら理由のくいちがいもなく、また第一審判決より重い刑を言い渡したのでないから、刑訴四〇二条に違反するものでもない。
一 心神耗弱者に実刑を科する場合には必ず刑の執行を猶予しなければならないか 二 刑訴法第四〇二条に違反しない事例
刑法39条2項,刑法25条,刑訴法482条1号,刑訴法402条
判旨
心神耗弱を理由に原判決を破棄した上で第一審と同一の刑を言い渡すことは、刑訴法402条の不利益変更禁止の原則に反しない。
問題の所在(論点)
心神耗弱による刑の減軽を認め一審判決を破棄した上で、第一審と同一の刑を言い渡すことが、理由不備(刑訴法378条4号)または不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反するか。
規範
刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則は、被告人が控訴した事件において、原判決の刑より重い刑を言い渡すことを禁ずるものである。また、控訴裁判所が特定の事実認定(心神耗弱など)を理由に一審判決を破棄した場合であっても、その後の量刑判断において、刑を減軽した結果が一審判決の宣告刑を超えない限り、理由の不備や矛盾は生じない。
重要事実
被告人が心神障碍を理由とする刑の減軽を求めて控訴した。控訴審は、被告人が犯行時に心神耗弱状態にあったことを認め、これを理由として第一審判決を破棄した。しかし、破棄後の自判において、控訴審は被告人に執行猶予を与えるべきではないと判断し、結果として第一審と同一の刑を言い渡した。これに対し弁護人は、心神耗弱を認めながら同一の刑を科すことは理由不備であり、かつ不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
まず、理由不備の点について、原判決は心神耗弱の事実は認めつつも、犯行の情状等に照らし執行猶予を付すのが相当でないと判断したものであり、論理的一貫性は保たれている。次に、不利益変更禁止の原則について、同条は「原判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」とするものであるが、本件で言い渡された刑は第一審と同一であり、「重い刑」には当たらない。したがって、一審より有利な認定(心神耗弱の認定)をしたからといって、必ずしも一審より軽い刑を言い渡さなければならない義務が生じるわけではない。
結論
控訴審が心神耗弱を認めて一審判決を破棄した場合でも、一審と同一の刑を科すことは適法であり、不利益変更禁止の原則にも違反しない。
実務上の射程
量刑不当を理由とする破棄自判において、有利な事情を新たに認めた場合でも、最終的な宣告刑が同一であれば不利益変更禁止の問題は生じないことを示す。答案では、刑訴法402条の「刑」の比較において、認定事実の有利不利ではなく、主文の刑そのものを基準とすべき根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)1152 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 棄却
懲役の実刑を言渡した第一審判決を、被告人の控訴に基いて破棄し、懲役刑に執行猶予を付した第二審判決が、検査官の上告により破棄され、事件が原裁判所(第二審)に差戻された場合において、該裁判所が審理の結果第一審判決の刑を相当として控訴を棄却しても、不利益変更の問題は起らない。
事件番号: 昭和39(あ)61 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文…