舊刑訴法第四〇三條のいわゆる不利益變更禁止とは、判決主文の刑即ち判決の結果を原判決の結果に比して、重い刑を云渡すことを禁ずる趣旨であること、しばしば當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇八號同年一一月八日第一小法廷判決、昭和二三年(れ)第八三八號同年一二月四日第二小法廷判決参照)に示されている通りである。しかるに本件第一審判決は、懲役一年並に罰金三百圓の刑を云渡しているのに對して、原判決は懲役一〇月としたのであるから、原判決は舊刑訴法第四〇三條に抵觸するものでないこと明かである。
第一審判決で懲役一年罰金三百圓を言渡し原審判決が懲役一〇月を言渡した場合と舊刑訴法第四〇三條にいわゆる不利益變更禁止
舊刑訴法403條
判旨
不利益変更の禁止(旧刑訴法403条、現刑訴法402条)とは、判決主文の刑という判決の結果を、原判決と比較してより重い刑を言い渡すことを禁ずる趣旨である。個々の犯罪につき量定された刑の推測に基づき比較するのではなく、主文の刑が軽くなっているか否かをもって判断すべきである。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、個別の犯罪事実に対する量刑の評価が第一審より重くなっていると推測される場合であっても、主文の刑が第一審より軽くなっていれば、不利益変更の禁止(旧刑訴法403条、現刑訴法402条)に反しないか。
規範
不利益変更の禁止の規定は、被告人が上訴した事件等について、原判決の刑よりも重い刑を言い渡すことができないとするものである。ここでいう「重い刑」か否かの判断は、個別の罪に対する評価や量刑の過程ではなく、判決の結果である「判決主文の刑」を原判決と比較して決定すべきである。
重要事実
被告人が上訴した事件において、第一審判決(原判決)は「懲役1年および罰金300円」の刑を言い渡していた。これに対し、控訴審(原審)は「懲役10か月」の刑を言い渡した。弁護人は、控訴審が認定した個別の犯罪事実に対する量刑を推測し、それが第一審より重くなっているとして不利益変更の禁止に抵触すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審の主文は懲役1年および罰金300円である。これに対し、原判決の主文は懲役10か月であり、罰金も課されていない。仮に弁護人が主張するように、個別の犯罪事実に対する量刑の推測において一部重くなっている部分があったとしても、判決の結果である主文の刑全体を比較すれば、明らかに第一審よりも軽い刑が言い渡されているといえる。したがって、被告人に不利益な変更がなされたとは認められない。
結論
原判決の主文の刑は第一審より軽いため、不利益変更の禁止には抵触しない。上告棄却。
実務上の射程
不利益変更の禁止の対象が「主文の刑」であることを明示した判例であり、現行刑訴法402条の解釈においても同様に適用される。答案上、併合罪の一部について刑が加重されていても、主文全体として刑が軽くなっていれば適法とする際の根拠となる。
事件番号: 昭和34(あ)1575 / 裁判年月日: 昭和34年11月16日 / 結論: 棄却
原審が、検察官の控訴を容れ、第一審の未決勾留日数は五五日と認めしたがつて第一審判決が七〇日の未決通算をしたのは違法であるとしてこれを破棄の上、改めて右未決勾留二〇日を本刑に算入したことは正当で刑訴四〇二条に違反するものではない。
事件番号: 昭和43(あ)921 / 裁判年月日: 昭和43年11月14日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮一〇月の刑を言い渡したのを第二審が懲役八月に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。