差戻後の控訴審判決は、その破棄された前判決との関係においても不利益変更禁止の原則に従うべきものと解するのを相当とする。
差戻後の控訴審判決と前判決との関係における不利益変更禁止の原則
旧刑訴法452条,旧刑訴法403条,旧刑訴法448条ノ2
判旨
不利益変更禁止の原則は、被告人が不利益を恐れず上訴権を行使できるようにする制度趣旨に鑑み、破棄差戻後の控訴審においても、破棄された旧控訴審判決の刑より重い刑を科すことはできないと解すべきである。
問題の所在(論点)
上告審において原判決を破棄して事件を控訴審に差し戻した場合、差戻後の控訴審は、既に破棄された原判決(旧控訴審判決)の刑に拘束され、これより重い刑を言い渡すことができないか。不利益変更禁止の原則の及ぶ範囲が問題となる。
規範
不利益変更禁止の原則(刑事訴訟法402条参照)の根本精神は、被告人側が上訴の結果として却って不利益な結果を招くことを慮り、上訴権の行使を躊躇させない点にある。したがって、明文の規定がない場合であっても、破棄差戻後の審判において破棄された原判決(旧控訴審判決)との関係で不利益変更禁止の制限を受けると解するのが相当である。また、上告審が自ら判決する場合(刑訴法414条・402条)との均衡からも、同様の制限を認めるべきである。
重要事実
被告人は傷害罪により、第一審で懲役二月、三年間執行猶予の判決を受け、控訴したが控訴棄却となった。その後、被告人が上告し、上告審は訴訟手続の法令違反を理由に右控訴判決を破棄し、事件を控訴審に差し戻した。差戻後の控訴審(原審)は、被告人に対し執行猶予を付さない懲役二月の実刑を言い渡した。これに対し被告人が、差戻前の判決より重い刑が科されたことは不利益変更禁止の原則に反するとして上告した。
事件番号: 昭和24(れ)1809 / 裁判年月日: 昭和24年11月8日 / 結論: 棄却
舊刑訴法第四〇三條のいわゆる不利益變更禁止とは、判決主文の刑即ち判決の結果を原判決の結果に比して、重い刑を云渡すことを禁ずる趣旨であること、しばしば當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇八號同年一一月八日第一小法廷判決、昭和二三年(れ)第八三八號同年一二月四日第二小法廷判決参照)に示されている通りである。しかるに本件第…
あてはめ
本件では、被告人が有利な変更を求めて上告し、上告審も被告人の利益のために原判決を破棄して差し戻した。それにもかかわらず、差戻後の控訴審において再度審理した結果として、破棄された前の控訴判決(執行猶予付き)よりも重い刑(実刑)を科し得るとすると、被告人は常にこの危険を覚悟して上告せねばならず、上訴権行使の保障を欠く。また、上告審が自判する場合には明らかに不利益変更が禁止されることとの比較において、差戻しの場合にのみ制限がないとするのは納得しがたい不均衡を生じる。したがって、差戻後の控訴審は、破棄された控訴判決の刑による制限を受けるというべきである。
結論
差戻後の控訴審は不利益変更禁止の原則に従うべきであり、破棄された前の控訴判決より重い刑を言い渡した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反がある。原判決を破棄し、執行猶予を付した自判をなす。
実務上の射程
刑事訴訟法402条の解釈において、破棄差戻しが行われた場合の「原判決」を形式的に第一審判決のみに限定せず、実質的に被告人の上訴権保障の観点から、破棄された中間的な控訴審判決も含むと解釈する際の根拠として用いる。不利益変更禁止の原則の趣旨(上訴権行使の保障)を論証する際の核心的判例である。
事件番号: 昭和26(れ)1488 / 裁判年月日: 昭和28年8月7日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】不利益変更禁止の原則は、上告審が原判決を破棄して事件を控訴審に差し戻した場合にも適用され、差戻後の控訴審は差戻前の控訴審判決よりも重い刑を言い渡すことはできない。 第1 事案の概要:被告人が贈賄等の公訴事実により第一審で有罪判決を受け、控訴審(広島高裁)において懲役6月、執行猶予2年の判決を言い渡…
事件番号: 昭和43(あ)921 / 裁判年月日: 昭和43年11月14日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮一〇月の刑を言い渡したのを第二審が懲役八月に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。