第一審が被告人に対し禁錮一〇月の刑を言い渡したのを第二審が懲役八月に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
刑訴法第四〇二条に反しないとされた事例
刑訴法402条,刑法10条1項
判旨
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反するか否かは、刑名等の形式のみによらず、自由拘束や法益剥奪の程度を具体的に比較し、実質上被告人に不利益であるか否かによって判断すべきである。第一審の禁錮10月を第二審で懲役8月に変更したことは、実質的に被告人に不利益とはいえない。
問題の所在(論点)
刑訴法402条の「被告人が控訴をした事件...については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない」との規定に関し、刑種が重くなる一方で刑期が短縮された場合に、不利益な変更に該当するか。
規範
刑訴法402条の不利益変更禁止の規定に違反するか否かは、第一審・第二審において言い渡された主文の刑を、刑名等の形式のみによらず、具体的に全体として綜合的に観察すべきである。具体的には、被告人に対する自由拘束や法益剥奪の程度を実質的に考察し、第二審の刑が第一審の刑よりも実質上被告人に不利益であるか否かによって判断する。
重要事実
被告人に対し、第一審判決は禁錮10月の刑を言い渡した。これに対し、控訴審(原審)は、第一審判決を破棄し、被告人を懲役8月に処する判決を言い渡した。弁護人は、この変更が不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和29(あ)3338 / 裁判年月日: 昭和31年10月9日 / 結論: 棄却
第一審が被告人を禁錮三月(三年間執行猶予)および罰金五千円に処し、右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべき旨の判決を云い渡したのに対して、被告人より控訴の申立があつた場合、控訴審が右第一審判決を破棄し、被告人を罰金三万円に処し、右罰金を完納することができないときは金五百…
あてはめ
本件では、第一審の「禁錮10月」と第二審の「懲役8月」を実質的に比較検討する。懲役は刑務作業を強制される点で禁錮より刑種としては重いとされるが(刑法10条1項参照)、本件では刑期が2か月短縮されている。被告人に対する自由拘束や法益剥奪の程度を具体的かつ総合的に考察すれば、禁錮10月から懲役8月への変更は、実質上被告人に不利益に変更したものとは認められない。
結論
禁錮10月の判決を懲役8月に変更することは、刑訴法402条の不利益変更禁止の規定に違反しない。
実務上の射程
異なる刑種の比較(懲役と禁錮、懲役と罰金など)において、形式的な刑の軽重順位(刑法10条)のみで機械的に判断せず、実質的な不利益の有無を総合考慮する手法を確立した。答案上は、刑種が重くなる場合でも期間や金額の減少等の有利な事情を指摘し、実質的な不利益性を否定する論理として用いる。
事件番号: 昭和46(あ)542 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が併合罪のうち一部を無罪とした場合であっても、第一審と同一の刑を科すことは刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則に違反しない。 第1 事案の概要:第一審判決は、被告人に対し併合罪の関係にある数個の犯罪事実を認め、有罪として一定の刑を科した。これに対し被告人側が控訴したところ、控訴審判決…
事件番号: 昭和38(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和39年5月7日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮二年六月の刑を言い渡したのを第二審が懲役二年に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
事件番号: 平成17(あ)1680 / 裁判年月日: 平成18年2月27日 / 結論: 棄却
1 第1審判決と控訴審判決の自判部分とが,いずれも懲役刑と罰金刑とを刑法48条1項により併科している場合に,控訴審判決の刑が刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑」に当たるかどうかを判断するに当たっては,各判決の主文を全体として総合的に考慮すべきである。 2 第1審の「被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処する…
事件番号: 昭和43(あ)2394 / 裁判年月日: 昭和44年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法45条前段の併合罪において、異なる種類の刑(懲役と禁錮)を選択した上で刑を併せる場合、同法47条但書の制限を超えて処断することは法令の適用を誤ったものといえる。ただし、宣告刑が不当に重いと認められない限り、直ちに原判決を破棄すべき正義に反する事由(刑訴法411条)には当たらない。 第1 事案の…