第一審が被告人を禁錮三月(三年間執行猶予)および罰金五千円に処し、右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべき旨の判決を云い渡したのに対して、被告人より控訴の申立があつた場合、控訴審が右第一審判決を破棄し、被告人を罰金三万円に処し、右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべき旨の判決を云い渡したとしても、その刑が被告人に重く変更されたものということはできない。
刑訴第四〇二条に違反しない一事例
刑訴法402条
判旨
第一審の禁錮刑および罰金刑を破棄し、それらより高額な罰金刑のみに処することは、総体的・実質的な考察によれば不利益変更禁止の原則に反しない。
問題の所在(論点)
第一審の「執行猶予付自由刑および罰金刑」を破棄し、第一審より高額な「罰金刑単独」に処することが、刑事訴訟法402条が禁じる不利益な変更にあたるか。
規範
刑事訴訟法402条にいう「刑」の軽重の比較は、単に形式的な刑名の比較によるのではなく、総体的考察の下に実質的・具体的に決すべきである。
重要事実
有限会社代表取締役である被告人が、自ら自動三輪車を操縦中に道路交通取締法違反および業務上過失傷害の罪を犯した事案。第一審は禁錮3月(執行猶予3年)および罰金5千円に処したが、第二審(原審)はこれを破棄し、罰金3万円(換刑処分500円1日)に処した。これに対し、被告人側は刑が重くなったとして不利益変更禁止違反を主張した。
事件番号: 昭和43(あ)921 / 裁判年月日: 昭和43年11月14日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮一〇月の刑を言い渡したのを第二審が懲役八月に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
あてはめ
本件では、被告人の社会的地位や犯罪の態様に照らせば、第一審が科した禁錮刑(執行猶予付)と罰金刑の併科に代えて、やや高額な罰金刑のみに変更することは、実質的に見て被告人に不利な変更とはいえない。また、罰金の増額に伴い換刑処分の留置期間が多少増加したとしても、自由刑が完全に免除された実質的利益を上回るものではなく、総体的な考察によれば重く変更されたとは認められない。
結論
本件の変更は不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反しないため、上告は棄却される。
実務上の射程
併科刑や執行猶予が絡む場合の刑の軽重比較において、実質説・総体説の立場を堅持した。答案上は、刑種が異なる変更(本件のような自由刑から財産刑への一本化等)の不利益性を判断する際の具体的枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成17(あ)1680 / 裁判年月日: 平成18年2月27日 / 結論: 棄却
1 第1審判決と控訴審判決の自判部分とが,いずれも懲役刑と罰金刑とを刑法48条1項により併科している場合に,控訴審判決の刑が刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑」に当たるかどうかを判断するに当たっては,各判決の主文を全体として総合的に考慮すべきである。 2 第1審の「被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処する…
事件番号: 昭和38(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和39年5月7日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮二年六月の刑を言い渡したのを第二審が懲役二年に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
事件番号: 昭和47(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和48年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官控訴に基づき、量刑不当を理由に第一審判決を破棄して自判することは、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡された後、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、この検察官控訴を理由が…
事件番号: 昭和46(あ)542 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が併合罪のうち一部を無罪とした場合であっても、第一審と同一の刑を科すことは刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則に違反しない。 第1 事案の概要:第一審判決は、被告人に対し併合罪の関係にある数個の犯罪事実を認め、有罪として一定の刑を科した。これに対し被告人側が控訴したところ、控訴審判決…