第一審が被告人に対し禁錮二年六月の刑を言い渡したのを第二審が懲役二年に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
刑訴法第四〇二条に違反しないとされた事例。
刑法10条1項,刑訴法402条
判旨
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反するか否かは、刑名等の形式のみによらず、自由拘束や法益剥奪の程度を具体的かつ総合的に比較して、実質的に被告人に不利益であるかにより判断すべきである。第一審の禁錮2年6月を原審が懲役2年に変更したことは、実質的に不利益な変更には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、第一審の「禁錮2年6月」から第二審の「懲役2年」への変更が、刑事訴訟法402条にいう「被告人に不利益な変更」に該当するか。
規範
刑事訴訟法402条が規定する不利益変更禁止の原則に抵触するか否かは、第一審判決と第二審判決の主文における刑を、刑名や刑期といった形式面のみに依拠して判断するのではなく、刑の重さを具体的・全体的に観察し、実質的に被告人に不利益であるか否かによって決すべきである。具体的には、被告人に対する自由拘束や法益剥奪の程度を総合的に比較して判断する。
重要事実
第一審判決が被告人に対し「禁錮2年6月」の刑を言い渡した。これに対し、原審(控訴審)は第一審の判決を変更し、被告人に「懲役2年」の刑を言い渡した。弁護人は、この刑の変更が不利益変更禁止の規定に違反する旨を主張して上告した。
事件番号: 昭和43(あ)921 / 裁判年月日: 昭和43年11月14日 / 結論: 棄却
第一審が被告人に対し禁錮一〇月の刑を言い渡したのを第二審が懲役八月に変更しても、第一審判決を被告人に不利益に変更したとはいえない。
あてはめ
懲役刑は禁錮刑と比較して刑務作業の義務を伴うため(刑法12条2項、13条2項)、形式的な刑種としては重いとされる。しかし、本件では刑期が2年6月から2年へと短縮されている。被告人に対する具体的な自由拘束の期間や法益剥奪の程度を総合的に比較考量すれば、懲役への刑種変更という側面を考慮しても、半年間の刑期短縮による利益が実質的に勝ると評価できる。したがって、原判決の刑は第一審の刑よりも実質的に重いとはいえない。
結論
第一審の禁錮2年6月を懲役2年に変更することは、実質的に被告人に不利益な変更とはいえず、刑訴法402条に違反しない。
実務上の射程
不利益変更の有無を「実質的・全体的」に判断する枠組みを示した重要判例である。答案上は、本件のような刑種(懲役・禁錮)の交代と刑期の長短が交錯する場合のほか、執行猶予の有無、罰金と懲役の比較など、形式的な比較が困難な場面で本規範を用いる。実質的な不利益の有無を、被告人の受ける具体的苦痛の観点から論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和29(あ)3338 / 裁判年月日: 昭和31年10月9日 / 結論: 棄却
第一審が被告人を禁錮三月(三年間執行猶予)および罰金五千円に処し、右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべき旨の判決を云い渡したのに対して、被告人より控訴の申立があつた場合、控訴審が右第一審判決を破棄し、被告人を罰金三万円に処し、右罰金を完納することができないときは金五百…
事件番号: 平成17(あ)1680 / 裁判年月日: 平成18年2月27日 / 結論: 棄却
1 第1審判決と控訴審判決の自判部分とが,いずれも懲役刑と罰金刑とを刑法48条1項により併科している場合に,控訴審判決の刑が刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑」に当たるかどうかを判断するに当たっては,各判決の主文を全体として総合的に考慮すべきである。 2 第1審の「被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処する…
事件番号: 昭和46(あ)542 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が併合罪のうち一部を無罪とした場合であっても、第一審と同一の刑を科すことは刑事訴訟法402条の不利益変更禁止の原則に違反しない。 第1 事案の概要:第一審判決は、被告人に対し併合罪の関係にある数個の犯罪事実を認め、有罪として一定の刑を科した。これに対し被告人側が控訴したところ、控訴審判決…