一 裁判所はその基本たる事實關係の同一性を害せざる限りは、公訴事實として摘示せられた事實と、その態樣において異り、從つて適用法條を異にする事實を認定することができるのである。 二 控訴審は第一審の覆審であるから、控訴事實の同一性を害せざる限りは、第一審判決の認定した事實と差違のある事實を認定しても、すこしも差支えないのである。 三 食糧緊急措置令第一〇條不正受配の罪にあたる事實が、同時に刑法に正條ある罪にあたる場合においては、刑法によつて處断すべきものであることは、同條末段の明定するところである。 四 刑事訴訟法における、いわゆる不利益變更の禁止とは同法第四〇三條所定のごとく、上訴審において、下級審が言渡した刑よりも重い刑を言渡すことを禁ずるのであつて、この制限に反せざる限り、事實の認定において、一審の認定するところよりも、重い罪にあたる事實を認定しても、これを以て、同條に違反するものということはできないのである。
一 公訴事實の同一性と裁判所の事由認定 二 控訴審が第一審の認定した事實と差違のある事實を認定することの可否 三 食糧緊急措置令第一〇條の食糧の不正受配と詐欺罪 四 控訴審における事實認定の自由と不利益變更禁止
刑訴法291條,刑訴法360條1項,刑訴法401條,刑訴法407條,刑訴法403條,食糧緊急措置令10條,刑法246條
判旨
控訴審において、事実関係の同一性を害しない限り、第一審が認定した罪よりも重い罪にあたる事実を認定することは許される。また、不利益変更禁止の原則は「宣告刑」の重さを基準とするため、より重い罪名を選んでも、第一審の刑より軽い刑を言い渡すのであれば同原則に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 事実関係の同一性を維持しつつ異なる罪名を認定することが「審理の範囲」を逸脱するか。2. 一審より重い罪名を適用しながら、宣告刑を一審より軽くした場合に「不利益変更禁止の原則」に抵触するか。
規範
1. 裁判所は、基本たる事実関係の同一性を害しない限り、公訴事実と異なる態様の事実を認定し、異なる法条を適用できる。2. 不利益変更禁止の原則(旧刑事訴訟法403条、現行402条)とは、上訴審において下級審が言い渡した刑よりも重い刑を言い渡すことを禁ずるものであり、事実認定において一審より重い罪にあたる事実を認定しても、宣告刑が重くならない限り同原則には違反しない。
重要事実
被告人は役場への不実申告により米穀購入通帳の交付を受け、主食等の不正配給を受けたとして、食糧緊急措置令10条違反(不正受配罪)で起訴され、第一審で懲役1年の判決を受けた。これに対し原審(控訴審)は、同一の事実関係に基づき、被告人が係員を欺罔して二重配給を受けたと認定し、刑法の詐欺罪を適用した上で、第一審の懲役1年よりも軽い懲役10ヶ月の刑を言い渡した。被告人側は、審判の請求を受けていない事件について判決をした点、および不利益変更禁止の規定に違反する点を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件において、起訴事実および一審認定の事実(不実申告による不正配給)と、原審認定の事実(詐欺による騙取)は、態様の差異はあるものの基本的事実関係の同一性を害さない。したがって、原判決が詐欺罪を認定したことは審判範囲の逸脱には当たらない。2. 不利益変更の有無は、認定された事実の罪質の軽重ではなく、言い渡された「刑」そのものの軽重で判断される。原審は詐欺罪という重い罪を認定したが、刑期は懲役1年から懲役10ヶ月に短縮しており、不利益な変更には該当しない。
結論
原判決に審判範囲の逸脱や不利益変更禁止原則の違反はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
不利益変更禁止の対象が「宣告刑」であることを明示した重要判例である。答案上は、訴因変更の要否(事実の同一性)や、控訴審における不利益変更禁止の適用局面で、罪名が重くなっても宣告刑が維持・減軽されていれば適法である旨の根拠として使用する。
事件番号: 昭和35(あ)61 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において事実の取調べを行い破棄自判する場合であっても、公訴事実の同一性を害しない限度で訴因の追加を許容すべきであり、不利益変更禁止の原則は判決の主文(刑の結果)のみを対象とする。 第1 事案の概要:第一審判決に対し控訴がなされ、控訴審において事実の取調べが行われた。その過程で検察官から訴因の…